資金の循環取引による不正事例について教えてください。
【この記事の著者】 江黒公認会計士事務所 公認会計士 江黒 崇史
http://www.eguro-cpa.com/
前回と同様、今回ご紹介するのも監査法人の監査手続きで従業員の不正が発覚した事例です。
当事者は上場会社の子会社(以下、当事者とする)です。
会社の取引の中で大部分を占める仕入先A社と販売先B社の代表取締役社長が同一人物であり、この仕入・販売取引の適正性と合理性について監査法人から注意喚起及び調査依頼があったのです。
調査をしてみると、販売先と仕入先が実質的に同一であり、対象物品の存在しない「資金の循環取引」ということがわかりました。
本件の当事者は意図的に不正をしようとしたものではなく、当該仕入先・販売先の社長を務める人物によって不正取引に巻き込まれたという事例です。
この資金循環取引では2つの取引を用いていました。
【取引1】(調査報告書から筆者により簡素化)
【B社】→【当事者】→【A社】→【C社】
当事者はA社から注文を受けた商品をB社から輸入して、A社へ販売するという取引です(最終的にA社はC社等に販売していきます)。
しかし、この3社間では現実の納品はなく、注文書や納品書と資金の決済だけがなされていました。
取引の流れは次のようなものでした。
・当事者には、A社から注文書がファクシミリ送信で届く。
・注文を受けて、当事者がB社へファクシミリ送信で発注する。
・B社から当事者へ納品書や請求書が送付され、当事者はB社へ購入代金を支払う
ところが、この流れの取引をしていたところ、当事者のA社に対する取引額が増え、与信上の問題となりました。
そこで次に、A社に対する与信額を減らすために下記の取引を開始しました。
【取引2】(調査報告書から筆者により簡素化)
【B社】←【当事者】←【A社】
A社への売上が増えたために、なんと次にはA社から仕入れるという不正取引をするようになったのです。
これは、当事者がA社から仕入れて第三者へ販売しようとしたところ、A社とB社の代表を務める人物からB社に販売するよう提案がなされ、取引が開始されました。
A社とB社の代表取締役が同じ人物だからできることですが、押してダメなら引いてみな的な虚偽の取引には驚きました。
さて、