会社経営者の場合、一般的に行われている相続対策だけでは不十分です。
後継者への事業引き継ぎはもちろんのこと、相続財産の渡し方や相続税対策を講じないと相続が発生した際、相続人間での揉め事などのトラブルが発生してしまいます。
本記事では会社経営者が考慮すべき相続問題と、生前からやるべき対策について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
会社経営者が相続対策をすべき3つの理由
会社経営者は、次の3つの理由から相続対策をしなければなりません。
● 会社の事業承継
● 相続財産の分配
● 相続税の支払い
会社の株式は後継者に渡さなければならない
事業承継は、人材・知的財産・資産を上手く引き継ぐことではじめて成立します。
中小企業の場合、経営者になれる人は限られており、人数が少ない組織であればトップの変更で企業としての立場や内情が大きく変化することもありますし、経営者のノウハウや人脈などは一朝一夕で引き継げるものではありません。
一方、経営者が保有していた株式は相続の対象となる財産であり、会社株式の大半を経営者が保有していた場合、相続により株式を引き継ぐ人が実質的に経営権を握ることになります。
複数の相続人に会社の株式を相続させる方法もありますが、その場合は会社の経営方針を巡って対立するリスクが発生しますので、後継者一人に相続させるのが一般的です。
相続財産の分配が偏ると相続人間で争いが起こりやすくなる
会社の株式の相続税評価額が高くなれば、株式を相続する後継者が取得する相続財産の割合が高くなります。
会社経営者の主な財産が会社の株式のみであれば、後継者が株式を取得すると他の相続人が取得できる財産は少なくなります。
相続人全員が納得すれば、特定の相続人が全財産を相続しても問題ありません。
ただ遺産分割協議は相続人全員が同意して成立するものであり、1人でも相続財産の分配に納得できなければ遺産分割協議は成立しません。
また未分割の状態だと金融機関の口座は凍結したままで出金できませんし、不動産の名義も変えられない状況が続いてしまいます。
金融財産を取得しない相続人は相続税の納税に苦慮する
相続税は、被相続人が保有するすべての財産が課税対象であり、会社の株式も相続開始時点の評価額に置き換えて価値を算出します。
相続税の支払いは金銭納付が原則であるため、相続財産に金銭の割合が少なければ不動産などの相続財産を処分し金銭を捻出するか、相続人の自己資金から相続税を納めなければいけません。
相続人間で取得する財産を平等にするために後継者が会社の株式しか相続出来なかった場合、相続税の納税が困難となります。
取得した相続財産が不動産や上場株式であれば、相続後すぐに売却して納税資金を確保することもできますが、未公開株式を売却することは通常出来ません。
相続対策を生前に実施する場合の流れ
中途半端な相続対策は逆効果になる場合もありますので、生前から十分な相続対策を行ってください。
経営者自身の保有する財産を正確に把握する
相続税対策は、相続財産に応じて講じる必要があるため、相続の対策を行う場合には、最初に自身の財産を正確に把握することから始めてください。
相続税の課税対象となるのは経営者個人が保有する財産のみであり、法人の保有財産は相続税の対象にはなりません。
個人事業主から法人成りした場合、設備等が個人と法人どちらの名義になっているか確認します。
個人名義のままの財産は相続税の課税対象となります。
また経営者個人が会社へ貸し付けているお金も相続財産ですが、会社の経営が厳しく回収が難しい状況であれば、生前中に債権放棄をするなどの対策を講じる必要があります。
なお遺産分割協議が成立した後に、新たな相続財産が判明した場合は、再度分割協議を行うことになるのでご注意ください。
後継者の指名と相続財産の分配を決める
事業承継は資産以外に知的財産も引き継ぐ必要があるため、生前に後継者を指名し、会社経営のノウハウを伝えることも大切です。
また後継者に特定の財産を相続させたい場合は、遺言書を作成する方法があります。
通常、相続財産は遺産分割協議により取得する財産について話し合いますが、遺言を残せば経営者の希望する形で相続人などへ財産を渡せます。
遺言書の作成方法は、「自筆証書遺言」・「公正証書遺言」・「秘密証書遺言」の3種類あり、どの方法で遺言を残しても得られる効果は同じです。
ただ遺言書を正しく作成しないと効果は発揮されませんし、遺言書に明記されていない遺産が存在すれば別途遺産分割協議を行うことになるので、財産を漏れなく記載する必要があります。
遺留分侵害額請求権が行使されることも想定すること
遺言書で特定の相続人に財産をすべて渡そうとした場合、他の相続人から遺留分侵害額請求権を行使される可能性があります。
遺留分侵害額請求権とは、遺言により本来取得できるはずだった相続人が相続分に応じて一定金額を請求できる権利です。
権利行使された場合、遺産を多く相続した人が侵害した権利に相当する額を金銭により支払う必要があるため、遺言を残す際は遺留分侵害額請求を受けることも想定して作成する必要があります。