相続財産は時価評価が原則ですが、非上場株式は取引相場がありませんので、税務評価額を相続税評価額とします。
税務評価額は納税者が算出しなければならず、適正な評価額を計算しないと税務調査により否認され、追徴課税の対象になる可能性もあるため注意が必要です。
本記事では時価と税務評価額の違い、そして税務評価額を正しく算出できていない場合のリスクについてご説明します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
時価と税務評価額の違い
時価は、市場で売買する際に成立する価格です。
不動産であれば周辺地域の取引状況を加味して時価が算出されますし、上場株式であれば証券取引所で売買されている株価が時価となります。
一方、税務評価額とは税金の計算をする際に用いられる金額です。
相続税法第22条では、相続税・贈与税の対象となる財産の金額は、相続・贈与時点の時価で計算するとしています。
しかし相続税・贈与税の対象となる財産は多種多様であり、財産ごとに時価を求めることは容易でありません。
そこで国税庁は、相続税・贈与税で財産を評価する方法を財産評価基本通達で定めており、非上場株式は財産評価基本通達の規定による方法で評価します。
また同族会社などの非上場株式を個人間売買する際、基準となる金額が決まらない場合もありますので、税務評価額を売買価格として用いることもあります。
時価よりも低い金額を株価とした場合の課税上の問題点
時価は市場で取引される価格なので、売主と買主が合意した金額であれば、それが時価額となります。
しかし親族間取引では売買価格を恣意的に下げることもありますが、第三者と取引する際の価格よりも低い金額で売買した場合、売買価格と税務評価額との差額が贈与税の対象となるケースがありますのでご注意ください。
低額譲渡は時価で売却したとして譲渡所得の計算を行う
低額譲渡は、時価よりも著しく低い金額で財産を売却することをいいます。
低額譲渡においての著しく低い金額とは、時価の1 / 2未満の金額をいい、個人から法人に低額譲渡した際は、売却代金を時価に置き換えて譲渡所得の計算をしなければなりません。
個人間の売買においては、時価の1/2未満の金額で譲渡資産を売却したとしても、譲渡所得の計算は通常通り行います。
しかし売却した際に発生した譲渡損失は、ないものとして取り扱われますし、時価よりも低い金額で取得した買主はみなし贈与の対象となります。
みなし贈与は時価1 / 2以上の金額であっても対象
みなし贈与は、著しく低い価額(対価を支払わない)で財産を取得したことにより利益を受けた場合、その利益は贈与により取得したものとみなす規定です。
利益を受けた人の財産が増加した場合だけでなく、債務の減少があった場合もみなし贈与の対象となり、債務免除した場合には免除金額が贈与税の課税対象です。
また著しく低い価額の対価は、個々の具体的事案に基づき判定します。
個人から法人へ譲渡する際の低額譲渡の規定における「著しく低い価額の対価」は、「資産の時価の1 / 2に満たない金額」が基準です。
しかしみなし贈与においては、時価の1/2以上であっても利益を受けたとみなされ贈与税の対象となります。
相続税評価額は税務評価額でなければ否認される
相続税は、相続開始時点の時価が相続税評価額となりますが、財産評価基本通達に計算方法が定められている場合は、規定されている方法で評価額を算出します。
同族会社の株式の売買事例が存在しても相続税においては、財産評価基本通達の規定通りに評価額を計算しなければならず、売買事例を相続税評価額とした場合、税務調査により否認される可能性が高いです。