令和4年7月14日に金融庁は、租税回避を目的として販売されている保険商品への対応として、国税庁との連携を強化することを発表しました。
保険商品に関する対応が厳しくなっているのは、平成31年(2019年)の税制改正で、法人が支払っている保険料の取扱いが変更になったことも要因の一つとされています。
本記事では、法人税基本通達の改正による保険料の取扱いの変更点と、金融庁と国税庁が連携を強化したことによる影響を解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
法人税基本通達改正(バレンタインショック)の概要と影響
法人保険の保険料に関する法人税法上の取扱いの見直しの発表は、平成31年(2019年)2月に行われたことから、「バレンタインショック」とも呼ばれています。
保険契約は本来、経営者の死亡などのリスクに備えるために利用するもので、法人が契約した保険料は、基本的に経費として計上することが認められていました。
しかし保険会社が保険料を経費計上できる点に着目し、節税を主とする目的で商品を販売するようになったため、保険料を経費計上するためには条件が設けられています。
平成31年2月の税制改正は、保険料を経費にする際の条件が大幅に見直されたものであり、一部の保険商品は節税できるメリットが失われるほど、税制改正の影響は大きかったです。
保険会社は、税制改正に対応した租税回避を見込める新しい商品を開発・販売していましたが、行き過ぎた節税行為により、保険業法に基づく業務改善命令が下されたケースもありました。
こうした背景から、令和4年7月に金融庁と国税庁は連携を強化することを決定し、租税回避目的の保険商品への対応は強化されています。
令和4年7月14日に金融庁が公表した保険商品への対応
金融庁は令和4年7月14日に発表した、「節税(租税回避)を主たる目的として販売される保険商品への対応における国税庁との更なる連携強化」は、保険契約者保護を進める目的で実施されるものです。
金融庁と国税庁が連携強化を強化する背景
国税庁は、平成31年の法人税基本通達改正による変更点を周知し、金融庁も節税ありきの保険商品を販売することへの注意喚起や、監督指針の改正等を実施していました。
しかし、保険業法に基づく業務改善命令が下された保険会社が存在するように、保険本来の趣旨を逸脱するような商品の開発や募集活動は、税制改正後も行われています。
金融庁と国税庁は保険契約者保護を図る観点から、今後発生しうる保険本来の趣旨を逸脱するような商品開発や募集活動に対応するため、連携強化による対応を行うこととしています。
連携強化による対策方法としては、商品審査段階およびモニタリング段階で保険商品の内容をチェックすることで、租税回避目的の保険商品が市場に流通することを防ぐものです。
商品審査段階における対応
商品審査段階における対応は、金融庁は保険会社に対して税務上の見解を国税庁に事前照会することを勧めると同時に、金融庁も保険会社からの同意の下で国税庁に対して事前照会を実施します。
事前照会の結果は、商品審査で参考情報として活用されますので、保険本来の趣旨を逸脱した商品が販売されることを未然に防ぐことが期待されています。
<商品審査段階で実施される内容>
1.金融庁から保険会社に対して、国税庁への税務に関する事前照会を慫慂(しょうよう)
2.保険会社から同意を得た上で、必要に応じて、金融庁からも国税庁に事前照会を実施
3.金融庁において、事前照会の結果を商品審査で参考情報として活用
(事業方法書への募集管理態勢に関する記載の指導等)
モニタリング段階における対応
モニタリング段階における対応は、主に金融庁と国税庁との間で行われます。
金融庁は国税庁との定期的な意見交換により、保険商品の租税回避スキームに関する情報提供を受け、情報を活用して保険会社等に対してモニタリングを実施します。
国税庁は、金融庁がモニタリングで得た情報の提供を受けることで、現場で行われている租税回避スキームを把握することができるため、新たなスキームへの対策を円滑に講じられるようになります。
1.金融庁と国税庁が定期的な意見交換の場等を通じて、国税庁から金融庁に対し、保険商品に関する租税回避スキームの情報提供
2.金融庁は国税庁からの情報や独自に把握した情報を活用し、保険会社・保険代理店における募集管理態勢の整備状況や、販売実態等のモニタリング等を実施
3.金融庁から国税庁に対して、商品開発や募集現場で利用されるスキームの情報提供