「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(租税特別措置法39条)」は、相続財産を売却した際に適用する制度で、不動産以外の資産を売却した場合にも用いることが可能です。
今回は相続財産に係る譲渡所得の課税の特例の要件および、適用する際の注意点について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
相続財産に係る譲渡所得の課税の特例の概要
相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(通称:相続税の取得費加算の特例)は、相続等により取得した資産を売却した際、相続税額の一部を譲渡資産の取得費に加算することができます。
適用要件は下記の3つで、株式などを売却した際にも適用することが可能です。
<相続財産に係る譲渡所得の課税の特例の適用要件>
・相続等により財産を取得した人が売却した
・その財産を取得した人に対して相続税が課されている
・相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却している
譲渡資産の取得費が不明な場合、売却代金の5%を概算取得費として用いることが認められていますが、取得費の実額と概算取得費を併用適用することはできません。
しかし、相続税の取得費加算の特例については、概算取得費に対しても適用することができるため、適用範囲が広いのも本制度の特徴です。
譲渡所得の取得費に加算する金額の計算方法
相続税の取得費加算の特例を適用して譲渡所得の取得費に加算する相続税額は、次の算式で求めます。
A×{B÷(C+D+E)}=取得費に加算する相続税額
A:譲渡者の相続税額
B:譲渡者の相続税の課税価格の計算の基礎となる譲渡資産の相続税評価額
C:取得財産の価額
D:相続時精算課税適用財産の価額
E:純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産の価額
以前は相続した土地を売却した際、売却した土地以外に対する相続税も取得費に加算することができましたが、平成26年度税制改正で制度内容が一部変更され、現在は売却した土地に対する相続税のみが加算対象となります。
相続財産に係る譲渡所得の課税の特例を適用する際の注意点
相続財産を売却した際に適用できる譲渡所得の特例制度は他に存在しますが、相続税の取得費加算の特例と併用して適用できないケースがあるのでご注意ください。
空き家特例との併用適用は不可
相続財産を売却した際に適用できる特例は、相続税の取得費加算の特例以外に「空き家特例(租税特別措置法第35条3項)」があります。
相続税の取得費加算の特例と空き家特例は併用適用が認められていないため、各特例の要件を満たす場合、納税者が適用する特例を選択しなければなりません。
空き家特例は、相続により取得した被相続人の自宅を売却した際に適用できる特例で、要件を満たせば譲渡益から3,000万円まで控除することができます。
相続税を納めていない場合でも空き家特例を適用することは可能ですが、被相続人が一人で住んでいた自宅のみを対象とすることから、適用できる相続財産は限られます。
一方、相続税の取得費加算の特例は相続税の納税がないと適用できませんが、自宅以外の不動産や株式などを譲渡した際にも適用できるため、売却した資産の種類に応じて特例制度を使い分けてください。
相続財産を2以上譲渡した場合の取得費に加算する相続税額
相続税の取得費加算の特例により加算できる相続税額は譲渡益が上限であり、相続財産を同一年中に2以上譲渡した場合、取得費に加算する相続税額は譲渡資産ごとに計算しなければなりません。
そのため売却した譲渡資産の中に損失が発生した資産があるときは、その損失が生じた譲渡資産に対応する部分の相続税額は取得費に加算できないのでご注意ください。