上場株式等を売却した際に生じた譲渡損失は、損益通算および繰越控除の対象となりますが、他の特例制度と違い、手続き方法を誤ると更正の請求でも適用が認められません。
本記事では、上場株式等に係る譲渡損失の損益通算および、繰越控除の制度上の注意点について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
株式等の譲渡損失の取扱い
株式の譲渡所得は、上場株式等と一般株式等に区分して計算します。
上場株式等を売却した際の譲渡損失は、他の上場株式等に係る譲渡所得等の利益、一般株式等を売却した際の譲渡損失は、他の一般株式等に係る譲渡所得等の利益と相殺することができます。
以前は上場株式等と一般株式等に係る譲渡所得は損益通算できましたが、平成28年(2016年)以降は基本的にこれら相互の通算等はできなくなりました。
上場株式等の譲渡損失は翌年以降に繰越控除を適用できるのに対し、一般株式等に係る譲渡所得等の損失は原則繰越控除の対象外です。
ただし、一般株式等に該当する場合でも、「特定中小会社の発行株式に係る譲渡損失の損益通算および繰越控除」の要件を満たすときは、損益通算および繰越控除を適用できます。
上場株式等の損益通算および繰越控除を適用する際の手続き
上場株式等を売却した際の譲渡損失に対し、損益通算または繰越控除を適用する場合、次の手続きを行う必要があります。
他の証券会社の譲渡損失との損益通算は確定申告が必須
同じ証券会社における上場株式等に係る譲渡損失および配当所得等は、一定の要件を満たしていれば証券会社内で損益通算ができるため、「源泉徴収なし」を選択している場合や繰越控除を適用するケースを除き、確定申告をする必要はありません。
一方、複数の証券会社で取引している場合、損益通算を行うためには確定申告が必須です。
確定申告書を提出する際は申告書に金額等を記載するだけでなく、「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」および、「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」も提出しなけばなりません。
上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除を適用する際の添付書類
上場株式等に係る譲渡損失を繰り越す場合、確定申告書だけでなく、「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」および、「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」の提出も必要です。
繰越控除を適用する年分においては、「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」を添付しなければならず、繰り越した損失額を翌年以後の譲渡益から差し引くためには、連続して同書類を添付した確定申告書を提出することが求められます。
上場株式等の譲渡がなかった年分についても、譲渡損失を翌年へ繰り越すためには申告が必要であり、確定申告書に譲渡損失の繰り越しに関する記載しなかった場合、損失を繰り越さないことを選択したとみなされるので注意してください。
株式等の譲渡損失の損益通算および繰越控除を適用する際の注意点
特定口座(源泉徴収あり)で取引している上場株式等の譲渡損失に対して、損益通算および繰越控除を適用する場合、当初申告において必ず特例を適用する旨を記載してください。
申告漏れを後から修正・更正することはできない
特定口座(源泉徴収あり)の譲渡損失を確定申告書に記載しなかった場合、譲渡損失の損益通算および繰越控除を適用しない選択をしたとみなされるため、後から申告内容を訂正することはできません。
期限後申告であれば損益通算および繰越控除を適用することも可能ですが、特定口座の内容を含めないで申告書を提出してしまうと、修正申告だけでなく、更正の請求でも特定口座の内容を確定申告書に含めることはできないので注意してください。