グループ経営している法人では、役員や社員を出向または転籍させる機会も多いです。
税務上では、出向者に支給する給与の負担方法が問題になることもありますので、今回は役員または使用人が出向した際に支出する、給与負担金の取扱いについて解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
出向と転籍の違い
出向と転籍は、雇用契約の扱いによって区分されます。
出向は、出向元法人が使用人との雇用契約等を維持しながら、出向先法人に使用人を派遣することをいいます。
出向先法人と雇用契約等を結ぶわけではないため、出向した際の使用人の身分は、出向元法人の使用人のままです。
転籍は、転籍前の法人と使用人の雇用契約等を解消し、新たに転籍先の法人と雇用契約等を結ぶことをいいます。
転籍者は雇用契約等の相手方が変更となるため、転籍により転籍前の法人の使用人である身分が失われ、新たに転籍先の使用人としての身分を取得することになります。
使用人である出向者に対する給与の取扱い
使用人への給与は損金算入できますが、出向者に対する給与を誰が負担したかによって扱いが変わります。
出向先法人が支出する給与負担金
出向者への給与は、出向先法人が出向者に直接支給する方法以外に、出向者に対しては出向元法人から給与を支給し、出向先法人が出向元法人に対して給与負担金を支払う間接支給の方法もあります。
出向先法人が自己の負担すべき給与(退職給与を除く)に相当する給与負担金を、間接支給として出向元法人に対して支出した場合、その給与負担金は原則出向者に対する給与として取り扱います。
この給与負担金の取扱いは、出向先法人が実質的に給与負担金の性質を有する金額を経営指導料等の名義で支出する際にも適用されます。
出向元と出向先の給与較差を補填するための支出
出向元法人の給与水準が、出向先法人の給与水準より高いケースでは、出向元法人が出向者の給与を保障するために、給与の差額分を補填することがあります。
出向元法人が出向先法人との給与条件の較差を補填するために支給した給与は、出向元法人の損金に算入することが可能です。
給与には出向先法人を経て支給した金額も含まれますし、次に該当する出向元法人が出向者に対して支給する金額は、いずれも給与条件の較差を補填するために支給したものとして扱われます。
- ・出向先法人が経営不振等で出向者に賞与を支給することができないことを理由に、出向元法人が出向者に対して支給する賞与の額
- ・出向先法人が海外にあるため、出向元法人が支給するいわゆる留守宅手当の額
出向先法人が支出した役員給与に関する給与負担金の取扱い
出向者が出向先法人で役員になることもありますが、出向先法人が支出する役員に係る給与負担金の支出について、次のいずれにも該当するときは、出向先法人における役員に対する給与の支給として役員給与の損金不算入の規定(法人税法第34条)が適用されます。
- ・役員に係る給与負担金が役員に対する給与として、出向先法人の株主総会、社員総会またはこれらに準ずるものの決議がされている
- ・出向契約等において、出向者に係る出向期間および給与負担金の額があらかじめ定められている
役員給与は原則損金不算入ですが、事前確定届出給与等の要件を満たす場合には損金算入が認められています。
本取扱いの適用を受ける給与負担金に対して事前確定届出給与を適用する場合には、出向先法人が管轄税務署に出向契約等に基づき支出する、給与負担金に係る定めの内容に関する届出を行わなければいけません。
また、出向先法人が給与負担金として支出した金額が、出向元法人が出向者に支給する給与を超えるときは、その超過部分の金額は給与負担金としての性格がないものとし、合理的な理由がないときは出向元法人に対する寄附金として取り扱われます。