不動産などの固定資産を交換した場合、税務上は互いに譲渡したとみなされますが、固定資産の交換特例(所得税法第58条)を適用すれば、課税を繰り延べることができます。
交換特例は交換差金が生じる場合でも適用可能である一方、交換差金は課税対象となる点には注意が必要です。
本記事では、固定資産の交換特例の要件および、交換差金が生じる際の取扱いについて解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
固定資産の交換特例の概要と適用要件
固定資産の交換特例は、個人が土地や建物などの固定資産を同じ種類の固定資産と交換した際、譲渡がなかったものとする制度です。
特例を適用することで譲渡所得の負担をゼロにできますが、取得資産の価額は譲渡資産のものを引き継ぐことになるため、交換により取得した資産を売却する際には、譲渡所得が生じる可能性が高いです。
<固定資産の交換特例の適用要件>
- ・譲渡資産および取得資産がいずれも固定資産である
- ・譲渡資産および取得資産は同じ種類の資産である
- ・譲渡資産を1年以上所有している
- ・取得資産は交換相手が1年以上所有していた資産であり、交換のために取得したものではない
- ・取得資産は、譲渡資産の交換直前の用途と同じ用途に使用する
- ・交換により譲渡する資産の時価と取得する資産の時価との差額は、これらの時価のうちいずれか高い方の価額の20%以内である
対象資産が不動産であったとしても、不動産業者などが販売のために所有している不動産は棚卸資産に該当するため、固定資産の交換特例を適用することはできません。
土地と土地、建物と建物のように同じ種類の資産を交換することになりますが、土地の種類には借地権も含まれます。
建物に附属する設備および構築物は建物の種類に区分されますが、建物と一体となって交換される場合に限り、建物として交換特例を適用することが可能です。
したがって、建物に附属する設備や構築物を単独で交換した際には、本特例を適用できないので注意してください。
固定資産の交換特例における時価とは
固定資産の交換が行われる場合、交換資産以外に金銭などの移動がなければ、原則それぞれを等価で取引したことになります。
時価は市場で取引される値段であり、時価とは異なる金額で不動産を譲渡した場合、贈与や低額譲渡などの指摘が入ることも考えられます。
しかし、合意された価額が通常の取引価額と異なる場合でも、交換当事者間で合意した価額が交換をするに至った事情等に照らし、合理的に算定されていると認められるものであるときは、固定資産の交換特例の適用上は合意した価額を時価として扱います。
2種類以上の資産を交換した際の取扱い
土地と建物をセットで交換するような場合、固定資産の交換特例は土地と土地、建物と建物のように、同じ種類ごとに交換したものとして適否判定を行います。
土地建物の合計額が譲渡資産と取得資産で等価であったとしても、種類ごとの価額が異なっているときは、それぞれの差額が交換差金となります。
また、同じ種類の固定資産を交換で2以上取得した際に、譲渡直前の用途と同一の用途に供していない固定資産がある場合、用途に供さなかった資産は交換特例の適用対象外となるので注意が必要です。
交換差金を受け取った場合の固定資産の交換特例の取扱い
固定資産の交換特例は差額が時価の20%以内であれば適用できますが、交換時に相手から交換差金を受け取った場合には、交換差金が譲渡所得の課税対象となります。
交換差金は金銭以外のものも対象になりますし、下記のように交換当事者間で交換差金をやりとりしていない場合でも、交換差金に該当することもあります。
- ・交換で取得した資産を、譲渡資産と同じ用途に使用しなかった
- ・1つの資産のうち一部を交換、他の部分を売買した
- ・土地と建物の一括交換において、土地と土地、建物と建物の種類ごとの価額が異なる
交換差金の額がいずれか高い方の価額の20%を超えている場合、固定資産の交換特例を適用することはできません。
固定資産の交換特例は、取得資産を譲渡資産と同じ用途に使用することが要件となっていますので、取得資産を譲渡直前と同じ用途に供していなければ、取得資産の価額が交換差金となります。
譲渡資産の一部を交換し、それ以外の部分を売買した場合、売買代金は交換差金として扱われます。
交換特例は同じ種類の固定資産ごとに適否判定を行うため、総額は等価であったとしても、種類ごとの価額に差がある場合には、それぞれの差額が交換差金となります。