パートタイマーの労働者が社会保険に加入したくないと言うのですが、本人の希望通りに加入しなくてもよいのでしょうか?
解説
【この記事の著者】 社会保険労務士
民間の保険会社の保険であれば、加入する、しないを自分の判断で決めることができます。
しかしながら、国が運営する公的保険は、個人の自由にはできません。
一定の条件にあてはまれば、本人の意思にかかわらず、必ず加入しなければならないからです。
パートタイマーの健康保険と厚生年金保険の加入要件は、次のように決められています。
1日の労働時間が一般社員の労働時間の4分の3以上あり、かつ、1ヶ月の労働日数が一般社員の労働日数の4分の3以上あること。
それぞれ両方の要件を満たすと、被保険者になります。
ちなみに、雇用保険の加入要件は、1週間の労働時間が20時間以上あり、かつ31日以上雇用見込みがあることです。
では次に、働き方や収入の違いについて見ていきましょう。
■ 103万円の壁
パートタイマーがよく気にするものに「103万円の壁」があります。
これは、所得税法上の配偶者控除を受けられるかどうかの年収のボーダーラインのことです。
配偶者がいる家庭には、税負担を軽くするため、所得から一定の金額を控除する「配偶者控除」という制度が設けられており、所得が38万円以下の場合に適用されます。
(年末調整の時、よく書き間違いがありますが、所得=収入ではありません)
給料の額に応じて一定額を必要経費とすることが認められており、年収162万5000円までは一律65万円です。(給与所得控除)
また、一律38万円の非課税枠があります。(基礎控除)
〇年収103万円-給与所得控除65万円=給与所得38万円
〇給与所得38万円-基礎控除38万円=0
つまり、年収が103万円以下であれば、所得税はかからないということなのです。
ただ、所得税は所得に応じて払うものなので、基本的に、収入が増えれば、手取りも増えます。
巷で「扶養を外れると損」と言われるのは、パートタイマー本人ではなく、配偶者の手取りの問題です。
税法上の優遇措置である「配偶者控除」を使えなくなり、税金が上がるからです。
といっても、パート収入が103万円を越えても141万円未満なら、世帯主の課税所得が1000万円以下(年収1230万円以下)の場合、「配偶者特別控除」があり、所得の金額に応じて控除が受けられます。
これにより「手取りの逆転現象」が解消されたとは言われますが、福利厚生として家族手当(配偶者手当)が厚い会社ですと、世帯年収がダウンします。
会社に連絡しそびれて、受けるべきものではない手当をもらってしまった場合、通常は返還させられます。
■ 130万円の壁
健康保険や年金保険料を自己負担するかどうかのボーダーラインが、年収「130万円の壁」です。
収入が増えても、一般的に160万円位までは、手取りが減る、いわば「働き損」になりがちです。
そのため、130万円をちょっと超える程度の働き方は、一番もったいないケースです。
ですから、しっかり働くなら、働くと決めて仕事をされるのがいいでしょう。
なお、「103万円の壁」は、1月1日から12月31日までの収入が103万円以下であるかどうかという税金の壁です。
この場合、非課税通勤費は除外します。
「130万円の壁」は、向こう1年間130万円未満(月収108,333円以下)の収入であるかどうかという社会保険の壁です。
この場合、収入に交通費を含みます。
■ 106万円の壁
2016年10月から、「106万円の壁」という新たなる壁が登場します。
パートタイマーに対する社会保険の適用が、以下のように拡大されるのです。
① 週の労働時間20時間以上
② 月額賃金8万8千円以上
③ 勤務期間1年以上(学生は除く)
④ 当面は従業員501人以上の企業
これらの基準を満たすパートタイマーは、健康保険と厚生年金保険に加入しなければならなくなります。
■ ワークシェアリングについて
設問のように、社会保険の加入要件に達しない働き方を希望する人もいます。
ワークシェアリングは、社会保険料を払いたくないパートタイマーと社会保険料の半額負担を軽くしたい会社のどちらもWIN-WINになる形です。
また、業務を複数で行うと、仕事の「見える化」が実現するという副産物もあります。
選択の一つとして、