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譴責処分(けん責処分)とは?
譴責処分(けん責処分)とは、労働者に始末書を提出させて将来を戒める処分をいいます。
始末書とは、事実関係を記載するに留まる顛末書と異なり、自身の行為について謝罪の意思を表明させ、それにより本人に反省を促すものです。
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問題社員に対して会社は、けん責、減給、降格などの懲戒処分を自由に行うことができるか?
譴責処分の決定は慎重に!
「けん責」は漢字では「譴責」と表記します。
「譴」は日常ではほとんど使わないような難しい漢字ですが、そもそもは「責める」、「とがめる」という意味があります。
けん責処分は懲戒処分の中でも軽いものですが、従業員本人は転職などの際には履歴書の賞罰欄に記載しなければいけないものです。
また、将来の出世などにも影響する可能性がため、会社としては本人の将来にも影響を与えるものであることを十分認識したうえで処分を下す必要があるといえます。
また、従業員の違反行為は会社の不利益になるものですが、それ自体が犯罪行為であった場合は、社会的な制裁を受けることにもなり、会社が被るダメージは計り知れません。
ぜひ、正しい知識を学んで従業員の違反行為などは未然に防ぐようにしましょう。
譴責処分(けん責処分)は、懲戒処分の種類のひとつ
従業員(労働者)が不正行為や違法行為をした場合、会社(使用者)はその従業員に対して懲戒処分を下すことができます。
しかし、会社が従業員に対して、どんな行為に対しても勝手に処分をしていいというものではありません。
さまざまな種類がある懲戒処分の中から、ここでは「譴責処分(けん責処分)」を中心に、処分の内容や必要条件、注意ポイントなどについて解説します。
懲戒処分を行なう場合の注意点
一般の民間企業で、会社(使用者)が従業員(労働者)に対して懲戒処分を行うためには、あらかじめ就業規則に処分の種類や程度について記載し、定めておかなければいけません。(労働基準法第89条)
懲戒処分の手続きは、就業規則に定める通りに行なう必要があります。
仮に正しい手続きが取られなかった場合、たとえ従業員に不正行為や違法行為があり、それに対して処分を下したとしても無効とされるケースもあるので注意が必要です。
就業規則については従業員に対して次の方法などで周知させなければいけません。(労働基準法第106条)
・常時、各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付ける。
・労働者に書面を交付する。
・磁気テープ、磁気ディスク、その他これらに準ずるものに記録し、かつ各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する。
会社が従業員に懲戒処分を下す場合、どのような場合に懲戒になるのかについて、過去の判例からも一定のルールやポイントがあります。
・就業規則で懲戒の規定をしている
・就業規則を従業員にきちんと周知している
・従業員の勤務態度や会社に対する貢献度合い
・過去の処分歴
・動機や計画性、常習性(出来心なのか、計画的だったのか)
・社内体制(周囲でも不正を行なっている従業員がいるかどうか)
・金額の大小(お金に関する不正の場合)
・過去にあった同種事案に関して下した懲戒処分の内容
懲戒の内容をどのようなものにするかについては各企業の任意ですが、公序良俗に反する内容は無効となります。
なお法律上、会社が従業員を懲戒する場合、次のように規定されています。
「労働契約法」
第15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
懲戒事由
懲戒処分とは、会社が従業員に対して行なう労働関係上の不利益措置のうち、企業秩序違反に対する制裁罰のことです。
懲戒事由となる違反行為には次のものなどがあります。
・職場規律違反
・業務命令違反
・犯罪行為
・経歴詐称
・企業秘密の漏洩
・背信行為
懲戒処分の種類と内容
懲戒処分の種類としては、一般的に処分の軽いものから順に次のものがあります。
・戒告
・けん責(譴責)
・減給
・出勤停止
・降格
・論旨解雇
・懲戒解雇
次に、それぞれの内容を詳しく見ていきます。
①戒告
当該従業員の将来を戒めるため注意や警告を行ない、口頭での反省が求められるものです。
そのため、始末書の提出は科されません。
②けん責(譴責)
注意や警告をして、始末書を提出させて当該従業員の将来を戒める処分です。
③減給
当該従業員が、本来ならば受けられるはずの賃金の一部を差し引く処分です。
ただし、「労働基準法」では減額の額についての規定があるので注意が必要です。
「労働基準法」
第91条(制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
④出勤停止
従業員の就労を一定期間禁止するものです。
自宅謹慎や懲戒休職と呼ぶ場合もあります。
それぞれの企業の定めにより異なりますが、1週間以内や10日~15日程度が実際の出勤停止期間としては多いでしょう。
なお、出勤停止中の賃金は支給されませんし、通常は勤続年数にも参入されません。
⑤降格
役職や職位の解任、引き下げ、職能資格・等級の引き下げなどの処分です。
⑥論旨解雇
もっとも重い処分である「懲戒解雇」を若干軽減した懲戒処分が「論旨解雇」です。
懲戒解雇に相当する事由がある場合に、本人の反省等の情状を酌量(しゃくりょう)して、会社と従業員が話し合い、双方納得したうえで下される解雇処分です。
⑦懲戒解雇
懲戒処分の中ではもっとも重いもので、懲戒として使用者が労働契約を一方的に解消する処分です。
通常は、解雇予告や予告手当もなしに即時になされます。
また、退職金の全部または一部が支給されない場合もあります。
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譴責処分の始末書を提出しない従業員への対処法は?
労働者が、譴責処分(けん責処分)に不服がある場合、使用者の指示に従わず、始末書の提出を拒むことがあります。
使用者が、譴責処分として謝罪の意思を表明する始末書を提出することを強制したり、それにも関わらず始末書を提出しない場合にさらに懲戒処分をすることが、憲法で保障される「思想・良心の自由」(憲法19条)を侵害するのではないかということが問題となります。
この問題については、再度の懲戒処分を認めた裁判例(下記裁判例①)と、認めなかった裁判例(下記裁判例②)とがありますが、このように裁判例でも判断が分かれうることや、譴責処分(けん責処分)で始末書を提出させること自体にこだわっても時間と労力をいたずらに費やすだけですから、始末書を提出しないことを勤務態度として人事考課のなかで評価して対応する方がよいと考えます。
なお、会社が、4回にわたり、譴責処分としたにもかかわらず、勤務態度に変化がなかった従業員について、就業規則の「勤務成績又は能率が著しく不良で、就業に適しないと認めるとき」に該当するとして、当該従業員を解雇した事例で、裁判所は、認定した当該従業員の行為に照らせば解雇権の乱用にはあたらないと判断しています(下記裁判例③)。
譴責処分に関する判例①
「エスエス製薬事件」(東京地裁判決 昭和42年11月15日 民集18巻6号1136頁)
概要
従業員Xが、会社に無許可で外出し、5時間職場を離脱したり、会社との協約で組合活動を禁止されている時間内に会社構内でビラを配った行為について会社が、けん責処分(譴責処分)による始末書の提出を求めたところ、これを拒否したため、Y社は就業規則に従って昇給停止、14日間の出勤停止の処分を下した。
Xは、これら処分が無効なものであり、Y社の従業員の地位を有していることの確認を求めて出訴した。
裁判所は、会社の就業規則には、譴責処分・昇給停止処分・出勤停止処分に付する場合は、あらかじめ始末書の提出を求め得ると規定されているため、従業員は対象となった行為について、会社上司から始末書の提出を命ぜられた以上、これを提出すべき義務があるものというべきであり、これを拒否したことは就業規則の「職務上上長の指揮命令に従わなかったこと」に該当するため、本件の昇給停止、出勤停止処分は、これに該当する事由を欠くものではないとして、有効であると判断した。
譴責処分に関する判例②
「福知山信用金庫事件」(大阪高裁判決 昭和53年10月27日 労判314号65頁)
概要
使用者が、有罪判決を受けた従業員を諭旨解雇としたことについて、就業時間中に抗議した従業員を謹慎処分に付したところ、当該従業員がこれに従わなかった。
そのため、使用者は、「謹慎処分を解除された場合には、過去の行為について反省し、今後同様の行為を行わないことを誓約するとともに、この誓約に違反した場合にはどのような処分を受けても異議を述べない」という内容の誓約書の提出を求めたが、当該従業員はこれにも従わなかったため、使用者は、就業規則に基づき当該従業員を諭旨解雇とした。
これに対し、従業員らは職員としての地位の確認を求めて出訴した。
裁判所は、使用者が求めた誓約書中の、包括的に異議申立権を放棄すると受け取れる文言が含まれており、妥当性を欠くだけでなく、そもそもこのような内容の誓約書の提出を強制することは、個人の良心の自由にかかわる問題を含んでおり、労働者と使用者が対等な立場において労務の提供と賃金の支払を約束する近代的な労働契約のもとでは、誓約書を提出しないこと自体を、風紀を乱す行為とみたり、特に悪い情状とみることは相当でないと判断して、解雇が無効であると判断した。
譴責処分に関する判例③
「カジマ・リノベイト事件」(東京高裁判決 平成14年9月30日 労判849号129頁)
概要
上司に対する侮辱的発言にはじまり、数々の会社(上司)の指示に従おうとせず、会社の秩序を乱していた従業員Xについて、日頃の上司の注意を聞き入れようとしなかったため、会社Yが4回にわたりけん責処分(譴責処分)としたが、結局最後まで始末書を提出せず、3回目のけん責処分(譴責処分)の際は、会社からの通知書をその場でシュレッダーにかけるという行為におよび、結局勤務態度にも変化が見られなかったため、会社が、就業規則で解雇事由と定めていた「勤務成績又は能率が著しく不良で、就業に適しないと認めるとき」に該当するとして、当該従業員を解雇した。
Xは、解雇には合理的な理由がなく無効であるなどと主張して、労働契約上の地位確認及び、未払賃金及び解雇前の未払時間外手当・付加金の支払、並びに慰謝料の支払を請求した。
裁判所は、当該従業員の行為について、一つ一つを取り上げると比較的些細なものが多いように思われるが、企業全体としての統一性を乱すもので、過誤にも通じるおそれがあるような軽視することができないものであると認定した上で、4回にわたりけん責処分(譴責処分)を受けたにもかかわらず、被控訴人の態度に変化がなかったという解雇に至る経緯について、就業規則が解雇事由として定めていた「勤務成績又は能率が著しく不良で、就業に適しないと認めるとき」に該当するものと認められ、会社による解雇が、権利の濫用に当たるとみることもできないと判断した。