M&Aにおける事業譲渡とは、どういった手法なのでしょうか? また、メリットとデメリットを教えてください。
【この記事の著者】 江黒公認会計士事務所 公認会計士 江黒 崇史
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「事業譲渡」は、対象会社の事業の一部(もしくは全部)を移動させることです。
会社の一事業が移動するイメージです。
M&Aというと、みなさんは「会社を買うこと」というイメージがあるでしょう。
ただ、会社を買うということは、その会社全体を取得することになるため、不要な事業や人員、場合によっては潜在的にあるリスク(例えば訴訟リスクなど。これを簿外の負債などともいいます)も引き継ぐデメリットがあります。
そこで、事業の一部を取得する事業譲渡という手法がM&Aの一手法として使われます。
なお、かつては「営業譲渡」と呼ばれておりましたが、2005(平成17)年の「会社法」施行により事業譲渡という用語になりました。
事業譲渡のメリットとデメリットとは?
事業譲渡は対象会社の全部を取得するのではなく、欲しい事業だけを取得する手法であることから、不要な事業や人材を引き継がないメリットがあります。
一方、引き継ぐ資産・負債を明確にしたり、当該事業が締結している契約書を再締結したりする手続きの煩雑さがデメリットといえます。
<メリット>
不要な事業や簿外負債を引き継がなくて良い
<デメリット>
個々の資産、負債を分けたり契約関係の再締結など、株式所得と比べて手続きが煩雑
例えば、アパレル事業と飲食事業を展開している会社があるとします。
アパレル事業が好調であり、飲食事業が苦戦しているようなときには、苦戦している飲食事業を同業で上手くいっている会社などに譲渡する際には、この事業譲渡が選択されることが多いです。
この例であれば、アパレルと飲食という2つの事業なので譲渡する資産・負債の内訳や人員については区分しやすいでしょう。
また、譲渡価格についても、飲食事業が生み出す将来キャッシュ・フローをベースに算定することができます。
問題は、飲食事業をA社からB社へ移すため、当該事業に関する外部との契約関係の見直しです。
このケースように飲食事業を譲渡する場合は、一つひとつの店舗について不動産賃貸契約を締結しているでしょう。
また、食材の仕入先と業務契約を締結していたりすることがあるでしょう。
事業譲渡においては、このような一つひとつの契約を再締結する必要があります。
すると契約条件の見直しをされ、これまでよりも厳しい条件となったり、最悪の場合契約関係の解消を迫られたりすることもあります。
事業譲渡は、売り手側にとっても買い手側にとっても特定の事業を区分して購入できる良い手法ではありますが、契約関係の見直しが生じることは念頭に置きながら、譲渡前と譲渡後で事業の運営に支障が生じないか事前に十分検討をして実行していくことが大切です。