当社の労働組合が、ビラ配りや街宣活動などの組合活動を行っています。
会社として、どのように対処したらよいでしょうか?
解説
ストライキなどの争議行為や、ビラ配りや街宣活動等の組合活動については、それらが「正当なもの」と評価できる場合には、使用者に与えた損害について、労働組合と組合員は賠償責任を免れる(民事免責)ので、使用者側の差止請求、損害賠償は認められません(労働組合法1条2項、8条参照)。
ただし、過去の判例では労働組合の活動が正当かどうかの判断要素として、活動が行われた
【1】時間、【2】場所、【3】態様、【4】ビラや情報宣伝の内容等によって判断されています。
【1】時間
就業時間内の活動は、原則として正当な組合活動とは認められません。
なぜなら、労働組合は使用者側から自立していてこそ意味のある存在であり、就業時間中、労働者は使用者の指揮命令下で職務を遂行する義務があるからです。
ただし、一定の組合活動が労働協約によって認められている場合や慣行上許されている場合、使用者の許諾がある場合には、正当な組合活動として、就業時間内の活動が認められます。
【2】場所
使用者は施設管理権を有するとされています。
つまり、業務遂行のために会社の施設を管理する権限があるということです。
よって、使用者の許可を得ず労働組合が会社内で活動をすることは、施設管理権の濫用と認められる特段の事情がないかぎり正当な活動とは認められません。
もっとも、ビラ配りは施設利用の態様が直接的でないという特殊性があり、過去の判例では、組合活動ではないが、事業所内ではない会社正門と歩道の間のスペースでのビラ配りは、作業秩序や職場秩序を乱すおそれのない場所であったとして、施設利用権を不当に侵害するものではなく、これに対してなされた懲戒処分は無効とした判断を正当であるとしました。
【3】態様
組合活動の態様(様子、状態)については、会社業務への支障の程度や役職者の私生活への影響の程度によって正当性が判断されます。
過去には、経営者の自宅前で行われた街宣活動やビラ配り、拡声器を用いた演説についての裁判例では、経営者の私生活の平穏や地域における名誉や信用を侵害する活動について、差止請求や損害賠償請求が認容されています。
【4】ビラや情報宣伝の内容
ビラなどの内容は、個人の名誉・プライバシーや会社の信用・営業秘密などの権利を侵害するものは正当なものとは認められません。
ビラ配りによる懲戒処分は有効かどうかが争われた判例では、使用者が労働者に懲戒を課すことが許されるとの判決が下されています。(判例を参照)
判例
「中国電力事件」(最高裁判決 平成4年3月3日 労判609号10頁)
概要
電力会社Yに勤務していたXらは労働組合活動の一環として、就業時間外に職場外でビラ配りを行った。内容はY社が計画していた原子力発電所建設を批判するものだった。
そこでY社側は、ビラの内容は虚偽であり、その発行および配布を行ったXらは就業規則の「会社の体面を汚した者」「故意または重過失によって会社に不利益をおよぼした者」に該当するとして、Xらを懲戒処分とした(休職2ヵ月1名、休職1ヵ月3名、減給半日3名)。
Xらは懲戒処分の無効確認を求めて訴訟を提起したが、1審、2審とも「内容の大部分が虚偽であるビラの配布は正当な組合活動とはいえず、懲戒事由に該当する」として、Xらの請求を棄却した。これに対して、Xらは上告した。
最高裁では、「労働者が就業時間外に職場外で行ったビラ配布行為であっても、ビラの内容が企業の経営政策や業務等に関し事実に反する記載をし又は事実を誇張、わい曲して記載したものであり、その配布によって企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなどの場合には、使用者は、企業秩序の維持確保のために、右ビラの配布行為を理由として労働者に懲戒を課することが許されるものと解するのが相当である」とした上で、原審が確定した事実関係の下において、Xらの行ったビラの配布が上記懲戒事由に該当するとの判断を正当として是認した。