動画解説はこちら
何気なく他人に話したことや、うっかりしゃべってしまった個人情報。
注意してください! その情報、誰かに狙われているかもしれません。
そして、あなたの不用意な一言が犯罪になるかもしれないのです。
ニュースの核心を読む
苦情電話を装い威圧し、巧みに個人情報を奪ったとして東京都目黒区の調査会社の男が「不正競争防止法違反(営業秘密侵害)」の疑いで逮捕されました。
男は契約者になりすまして、千葉県のガス会社のコールセンターへ苦情電話をかけ、「料金を払っているのに請求書がきた」と言いがかりをつけたようです。
さらには、「名前? さっき言ったでしょ」「漢字は間違ってないか」などと相手を追い詰め、電話口で女性職員がひるむと、「画面ちゃんと見ろよ」「こっちは料金払ってんだ」とたたみかけ、相手が情報を口にするように仕向けていたといいます。
報道によると、男は探偵歴20年以上で、盗聴対策のプロとしてマスコミにもたびたび登場。過去には警察官から犯歴情報を買い取った容疑で逮捕され、執行猶予付きの有罪判決を受けていました。
1回、およそ3、4分の電話で契約名義など個人情報を聞き出した手口は単純にして巧妙だったといいます。
その後の調べによると、男らは逮捕前に50ほどの自治体に電話をかけていたとみられ、2012年11月に神奈川県逗子市で起きたストーカー殺人事件の被害者の住所の割り出しにも関わった疑いもあるということです。
リーガルアイ
では、不正競争防止法とはどういうものなのか、条文を見てみましょう。
不正競争防止法
第1条
この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
「不正競争」は多岐にわたります。
たとえば以下のようなものが挙げられます。
- 既に知られているお店の看板に似せたものを使用して営業する(周知表示混同惹起行為)
- ブランドとなっている商品名を使って同じ名前のお店を経営する(著名表示冒用行為)
- ヒット商品に似せた商品を製造販売する(商品形態摸倣行為)
- 企業が秘密管理している製造技術や販売マニュアル、顧客名簿などを持ち出して独立・転職・転売したり、不正に取得する(営業秘密)
- CDやDVD、音楽・映像配信などのコピープロテクトを解除する機器やソフトウェアなどを提供する(技術的制限手段に対する不正競争行為)
- 原産地を誤認させるような表示、紛らわしい表示をして商品にする(原産地等誤認惹起行為)
- ライバル会社の商品を特許侵害品だとウソを流布して、営業誹謗する(競争者営業誹謗行為)
- 外国製品の輸入代理店が、そのメーカーの許諾を得ずに商標を使用する(代理人等商標無断使用行為)
法律では窃取(せっしゅ)、詐欺(さぎ)、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為や、その営業秘密を使用、開示する行為、不正取得された営業秘密を使用、開示する行為、事業者から開示された営業秘密を、不正に利益を得る目的あるいは事業者に損害を被らせる目的で使用、開示する行為、などを禁止しています。
今回のケースは、不正競争防止法違反の中の「営業秘密侵害」にあたります。
探偵の男は不正に顧客情報という「営業秘密」を入手して利益を得ていたので当然、犯罪になります。
一方、顧客情報を漏らしてしまったガス会社の職員は犯罪になるのでしょうか?
彼女は男から威圧的に責められ、心理的には動揺していたでしょう。
しかし、情報を漏らすつもりなどなかったはずです。業務のマニュアル、ルールに従って対応したのでしょう。
それでも結果的に、自分では気づかぬうちに個人情報を流出させてしまいました。
今回の犯罪のポイントは、故意か、それとも故意ではなかったのかになります。
つまり、女性職員は、故意に情報を流出させたわけではないので犯罪にはなりません
ところが問題なのは、故意の場合です。
昨年、ソフトバンクの代理店の元店長が携帯電話契約者の個人情報を会社外の探偵業者に渡し、報酬を受け取っていたとして逮捕された事件がありました。
報酬を得るために、故意に個人情報を流出させていたわけです。
不正競争防止法違反の罰則は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれを併科です。
かなり重い罰則ですし、さらには、損害賠償請求の対象になる可能性もあります。