負担付贈与とは、財産をもらう代わりに債務を負担する方法です。
制度を上手く活用できれば、贈与税の支払いを抑えつつ財産を移動させることも可能ですが、不動産の負担付贈与を行う場合には注意点があります。
本記事では負担付贈与を行う際の課税関係および、贈与税の課税価格を算出する際のポイントを解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
負担付贈与で取得した財産の贈与税の課税価格
贈与税は、財産をもらった際に課される税金であり、通常の贈与では贈与財産の価額が贈与税の課税価格となります。
それに対し、個人から負担付贈与を受けた際の課税価格は、贈与財産の価額から債務等の負担額を控除した額となります。
たとえば親から1,000万円の金地金の贈与を受ける代わりとして、借入金700万円を引き継ぐ場合、贈与税の課税価格は300万円です。
また負担付贈与が行われた際、その負担額が第三者の利益に帰すときは、第三者が負担額に相当する金額を贈与により取得したことになります。
贈与税は財産だけでなく、経済的利益を受けたときも課税対象となるので注意してください
負担付贈与における不動産の評価額の計算方法
不動産の贈与税評価額は、贈与の仕方によって評価方法が変わりますので、贈与する金額だけでなく、不動産の渡し方も気を付けなければなりません。
通常の贈与であれば、土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額を用いて贈与税評価額を算出します。
しかし負担付贈与で不動産を贈与するときは、通常の取引価額に相当する金額から負担額を控除した額が贈与税の課税価格となります。
通常の取引価額に相当する金額を基準として贈与税の計算をしなければいけないのは、時価と贈与税の評価額の差額を利用して、贈与税(相続税)を回避することを防ぐためです。
路線価方式(倍率方式)は、土地の贈与税および相続税評価額を算出する際に用いる方法ですが、算出される評価額は時価の8割相当とされています。
親が1億円の土地を購入した場合、路線価方式等で算出した贈与税評価額はおおよそ8,000万円になりますので、借入金8,000万円と一緒に子へ負担付贈与を行えば、子は土地を相場よりも2,000万円低い金額で手に入れることができてしまいます。
そのため国税庁は、このような方法での租税回避を防ぐため、負担付贈与における不動産の評価は、通常の取引価額に相当する金額で計算することとしています。
賃貸物件を贈与する際の不動産の評価方法
賃貸物件を贈与する場合、敷金の扱いにも注意してください。
敷金は不動産の借主が貸主に渡す金銭で、賃貸借契約が終了する際に債務の未払いがなければ借主へ返還されます。
賃貸中に建物の所有権が移転する場合、敷金は旧所有者から新所有者へ引き継がれますが、敷金は賃貸借契約が終了した際に返済する金銭ですので、旧所有者(贈与者)が新所有者(受贈者)に賃貸物件を贈与すると法形式上は負担付贈与となります。
しかし、敷金返還義務に相当する現金の贈与を同時に行っている場合、一般的に旧所有者・新所有者(贈与者・受贈者)の間には、敷金返還債務を承継させる意図はないため、敷金が引き継がれたとしても実質的な負担は生じません。
そのため、このようなケースは負担付贈与には該当せず、貸付物件の贈与税評価額は通常の贈与と同じ方法で計算することになります。
負担付贈与で取得した不動産の購入金額と所有期間の扱い
贈与で取得した不動産は、贈与者の取得費と取得日をそのまま引き継ぐことになります。
受贈者が贈与不動産を売却した場合、売却金額が贈与者の購入金額(取得費)よりも低ければ譲渡所得税は課されませんし、売却利益が発生するケースでも、贈与者と受贈者が所有していた期間の合計が5年を超えていれば長期譲渡所得に該当します。
一方、負担付贈与で取得した不動産については、負担付贈与が行われた時点で受贈者が負担額で不動産を取得したことになるので注意してください。
贈与者が1億円で購入した土地を借入金7,000万円と一緒に受贈者へ贈与した場合、受贈者の取得費は1億円ではなく、負担額の7,000万円です。
また贈与不動産を売却した際の譲渡所得の所有期間は、受贈者が所有者となった期間のみで判断することになるため、贈与を受けた直後に不動産を売却した場合、短期譲渡所得として税金の計算をしなければなりません。
なお受贈者の負担額が贈与者の取得費よりも低いときは、負担付贈与であっても、受贈者は贈与者の取得費と取得日を引き継ぐことになります。