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税務調査の結果は税理士の力量次第で決まるという話を聞きますが、実際どの程度関わってくるものなのでしょうか?
【この記事の監修者】 讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
税務調査は、税理士の力量次第で結果が決まるといえます。
調査の現場では、業界用語で「グレーゾーン」といわれる部分が争点になるからです。
グレーゾーンとは、白黒がハッキリしない要素のことをいいます。
経営者は、白(課税しない)にしたい。
調査官は、黒(課税する)にしたい。
税務調査では、2つの相反する思惑を巡って会社と税務署とが交渉することになります。
そのため、税金の専門家の存在意義があるのです。
調査官には黒にしたい思惑が働くのですから、税理士の力量次第で追徴課税の金額が変わるのは当然だといえます。
目次
あなたの会社の顧問税理士は税務署寄り?会社寄り?
そこで、同じ法人の売上高の計上漏れでも、税理士によって税務調査の結果が違ってくるという例を説明します。
争点は、計上漏れの売上高を社長が私的に流用したのか、それとも会社が貸し付けたのかの解釈を巡ってのものです。
私的に流用したと判断された場合、役員賞与としてさらに源泉所得税が課税されます。
具体的には調査官が、計上漏れの売上高を社長がポケットマネーにして個人的に使ったと解釈したことを指します。
一方、会社が貸し付けたと判断された場合、社長の借入金が発生するだけで、源泉所得税が課税されることはありません。
税理士の税務署に対するスタンスよって、次のように結果は変わってきます。
具体的には、税務署寄りなのか、納税者寄りなのかの違いです。
A税理士
社長が私的に流用したという署名を調査官の原稿どおりに経理担当者の妻が記入させられました。
一筆取られたことにより、役員賞与であることが証明されます。
もう争う余地はありません。
B税理士
現金で回収した分を売上高に計上しませんでした。
その時、調査官はさりげなく役員賞与になる旨を伝えて、税理士は追認します。
その分の源泉所得税が課税されます。
C税理士
代引き分の売上高が計上されていないことを指摘されました。
同時に調査官は、役員賞与になると主張しました。
すると、税理士は会社が社長に貸し付けたと反論しました。
調査官は返済計画を聞き、借用書の有無を確かめてきます。
もちろん、そんなものはないことは承知の上です。
結果として、社長が私的に流用したことが証明されなかったので、証拠不十分で役員賞与に認定されませんでした。
したがって、源泉所得税が課税されません。
税務調査で税理士が力量を発揮できるかどうかは社長次第
ここからが大切なポイントになります。
同じ売上高の計上漏れなのに、なぜ税理士によって結果が異なるのでしょうか。
それぞれのケース別に検証してみます。
A税理士のケース
このケースでは、税務調査で「社長が私的に流用した」という署名を経理担当者に求めてきたことが注目すべき点です。
そもそも、一筆を取るという法律はどこにも存在しません。
しかも、調査官の考えた原稿通りに書かされています。
調査官は、かなり会社に対して強気な態度です。
その背景には、税務調査を開始するまでの税理士の対応が関係している節があります。
具体的には次の通りです。
・日程を決めるときに調査官の都合に合わせていた。
税務調査は任意なので、お互いの合意で決めるのが通常のルールです。
その権利を税理士は放棄しました。
・当日に用意する書類の確認を怠った
調べる資料に制限が加えられなかったため、税務調査をやりやすい環境が整ってしまいました。
要するに税理士は納税者の味方というよりも、税務署寄りであると調査官に見抜かれたのです。
B税理士とC税理士のケース
じつは、B税理士とC税理士は同一人物です。
信じられますか?
売上高の計上漏れを私的に流用した、という調査官の指摘に対する追認と反論の差は、税理士と会社(社長)との人間関係に要因がありました。
・B税理士のケース
会社が税理士業務に非協力的な態度をとっていました。
具体的には、いくら催促しても必要な資料を用意してもらえなかったことがあげられます。
要は、会社が会計事務所側のスケジュールに配慮してくれなかったのです。
別に悪気はなく、本業が忙しいので後回しにしただけでした。
そのため、決算の申告期限ギリギリになると残業して対処せざるを得ませんでした。
B税理士は仕事がやりづらかったでしょう。
こうなると、税理士はストレスが溜まる一方です。
・C税理士のケース
会社が税理士業務に協力的でした。
決算をゴールに、会社が月単位で会計資料をそろえてくれたため、提出期限間際で慌てることはありませんでした。
そのため、申告期限よりも余裕を持って税務署に確定申告の書類を提出できました。
会社は本業に追われつつも、税理士への配慮を忘れていませんでした。
おかげで、C税理士は仕事がやりやすかったことでしょう。
少なくとも、ストレスを溜めることはなかったはずです。
以上のことから、税理士の力量とは次の関係式の通りという結論に達します。