「収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除(租税特別措置法第33条の4)」は、資産が収用された際に適用できる譲渡所得の特例制度ですが、特例の対象から外れる補償金や、併用適用できない譲渡所得の特例制度が存在します。
本記事では、収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除の要件および、適用する際の注意点について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除の適用要件
収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除(以下、譲渡所得の5,000万円控除)の適用要件は、次の通りです。
<譲渡所得の5,000万円控除の適用要件>
- ・その年中の収用交換等により譲渡した資産のいずれについても、「収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例」および、「交換処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例」を適用していない
- ・最初に買取り等の申出があった日から6か月を経過した日までに、資産の譲渡をしている
- ・同一の事業において2以上の譲渡があり、その譲渡が年をまたがって2回以上に分けて行われた場合において、最初の年以外の譲渡した資産に対して本特例を適用していない
- ・公共事業の施行者から最初に買取り等の申出を受けた者が譲渡している
譲渡所得の5,000万円控除は、棚卸資産に対して適用することはできません。
譲渡所得の5,000万円控除以外にも、公共事業のために不動産を売却した際に適用できる特例は存在しますが、同一不動産に対して収用に関する譲渡所得の特例の併用適用は認められていません。
同じ公共事業で2以上の年にまたがって売却する場合、譲渡所得の5,000万円控除を適用できるのは最初の年に限られます。
また、公共事業の施行者から最初に買取り等の申出を受けた者しか本特例を適用できませんが、申出を受けた者が死亡している場合には、その者の相続(遺贈)によって対象不動産を取得した者が適用することは可能です。
譲渡所得の5,000万円控除の対象になる補償金の範囲
個人が収用等で土地等を売却する場合、色々な名目で補償金が支払われますが、補償金の種類によって所得区分は異なります。
譲渡所得の5,000万円控除を適用できるのは、原則対価補償金のみとなっているため、対価補償金以外に該当する補償金に対して特例を適用することはできません。
しかし、建物の収用等に伴い、収益補償金名義で補償金が交付された場合において、建物の対価補償金として交付を受けた補償金が再取得価額に満たないときは、収益補償金のうちから満たない金額に達するまでの額を対価補償金に振り替えることが認められています。
なお、収益補償金を対価補償金に振り替えるときは、再取得価額に満たない金額までの全額を振り替えなければいけません。
<各種補償金の種類と取扱い>
- 補償金の種類:対価補償金
- 補償金の内容:収用等された資産の対価となる補償金
- 所得区分:譲渡・山林
- 補償金の種類:収益補償金
- 補償金の内容:資産を収用等されることによって生ずる事業の減収や、損失の補てんに充てられるものとして交付される補償金
- 所得区分:事業・不動産・雑
- 補償金の種類:経費補償金
- 補償金の内容:事業上の費用の補てんに充てるものとして交付される補償金
- 所得区分:事業・不動産・雑
- 補償金の種類:移転補償金
- 補償金の内容:資産の移転に要する費用の補てんに充てるものとして交付される補償金
- 所得区分:一時
- 補償金の種類:精神補償金
- 補償金の内容:祭し料、改葬料など、精神的補償など所得税法上の非課税に当たる補償金
- 所得区分:非課税
譲渡所得の5,000万円控除と課税繰延べの特例の適用関係
収用に関する特例には、譲渡所得の5,000万円控除(租税特別措置法第33条の4)以外に、課税繰延べの特例として「収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例(措置法第33条)」および、「交換処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例(第33条の2)」があります。
各特例の要件を満たしていたとしても、譲渡所得の5,000万円控除と課税繰延べの特例は併用して適用できないため、いずれかの特例を選択して適用することになります。
また、収用交換等でその年中に譲渡した資産に譲渡所得の5,000万円控除を受けられる資産と受けられない資産がある場合、特例を適用できる資産に対して譲渡所得の5,000万円控除を適用するときは、譲渡所得の5,000万円控除を適用できない資産に対して課税繰延べの特例を適用することはできません。