国税庁は、海外居住者や海外財産に対しての監視を年々強化しており、『国外財産調書』の提出義務もその一つです。
国外財産調書以外にも法定調書は存在しますが、国外財産調書が特徴的なのは、提出の有無によって加算税の税率が増減する点です。
また令和2年度の税制改正では、国外財産調書制度の見直しも行われましたので、制度内容と改正点について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
国外財産調書制度は5,000万円を超える海外資産保有者が対象
国外財産調書はその年の12月31日において、5,000万円を超える国外財産を保有する人が対象の法定調書です。
ただ提出義務者は日本に住んでいる人に限定しているため、非永住者(※)が5,000万円を超える国外財産を保有していても、国外財産調書を提出する必要はありません。
国外財産調書の提出義務者となった場合、国外財産の種類や数量、価額などを記載した調書を、翌年の3月15日までに税務署へ提出します。
また最初に申し上げましたが、国外財産調書は提出の有無により加算税の税率が増減する、加算措置と軽減措置の規定があるのも特徴です。
そして正当な理由なく調書の提出をしなかった場合や、虚偽の内容に基づき調書を作成した場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることもありますので、該当した場合には必ず提出しなければなりません。
※非永住者に該当する人
日本国籍を有していない人で、過去10年以内において、国内に住所または居所を所有していた期間の合計が5年以下である場合
国外財産調書の提出の有無による加算税の税率への影響
所得税・相続税の申告において国外財産調書に記載のある財産の申告漏れを税務署から指摘された場合、本来課される過少申告加算税の税率が5%下がる、軽減措置が適用されます。
一方で、国外財産調書の提出がなかった場合や、国外財産調書に記載されていない財産の申告漏れが生じていた場合には、本来課される過少申告加算税の税率が5%上乗せする、加算措置が適用されます。
なお令和2年税制改正では、加重措置による税率が10%上乗せする規定が新たに創設されました。
令和2年度の税制改正による国外財産調書の変更点
令和2年度の税制改正では、国外財産調書制度に大きく4つの変更が行われました。
- 1.相続国外財産に係る相続直後の国外財産調書等への記載の柔軟化
- 2.国外財産調書の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置の見直し
- 3.過少申告加算税等の特例の適用の判定の基礎となる国外財産調書等の見直し
- 4.国外財産調書に記載すべき国外財産に関する書類の提示又は提出がない場合の加算税の軽減措置及び加重措置の特例の創設
※1の事項は、令和2年分以降の国外財産調書に適用
※2~4の事項は、令和2年分以後の所得税と、令和2年4月1日以後の相続税について適用
1.相続国外財産に係る相続直後の国外財産調書等への記載の柔軟化
相続が開始した年の12月31日においての国外財産調書では、相続により取得した国外財産を記載しないで調書を提出できるようになります。
また国外財産調書の判定基準となる国外財産(5,000万円超)は、相続により取得した国外財産を除外した金額で判定します。
2.国外財産調書の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置の見直し
国外財産調書の提出がなかった際の過少申告加算税の加重措置の対象に、相続取得による国外財産が含まれる相続税の修正申告等が追加されました。
(修正申告等には、修正申告書、期限後申告書、更正、決定が含まれます)
一方で、次に該当するケースでは、加算税の加重措置は適用されません。
・その年の12月31日において、相続により国外財産を取得した国外財産調書の提出基準を満たす人が、本人に帰責事由がなく提出期限内に国外財産調書の提出がない場合
・その年の12月31日において、相続により国外財産を取得した国外財産調書の提出基準を満たす人が、本人に帰責事由がなく国外財産調書に記載すべき相続取得した国外財産の記載がない場合(記載不備も含む)
3.過少申告加算税等の特例の適用の判定の基礎となる国外財産調書等の見直し
相続取得した国外財産が含まれる相続税の修正申告等があった場合において、過少申告加算税等の軽減措置と加重措置の判定基準となる、国外財産調書について見直しが行われました。
① 国外財産調書の提出がある場合で、以下の国外財産調書のいずれかに該当する場合には過少申告加算税等の軽減措置の対象となります。
- ・被相続人の相続開始年の前年分の国外財産調書
- ・相続人の相続開始年の年分の国外財産調書
- ・相続人の相続開始年の翌年分の国外財産調書
② ①に掲げるすべての国外財産調書に相続取得した国外財産の記載がない場合には、加重措置の対象となります。
なお、①の場合の加重措置について、相続人の相続開始年の翌年分の国外財産調書の提出義務がない相続人には適用しません。
また相続開始年の年分においては、「1.」により国外財産調書に記載しないことができる相続取得した国外財産に係る、所得税に修正申告等があった場合の加算税の加重措置は適用しません。
4.国外財産調書に記載すべき国外財産に関する書類の提示又は提出がない場合の加算税の軽減措置及び加重措置の特例の創設
国税庁等の職員は、国外財産調書に記載すべき財産の取得や運営、財産処分に関する書類について、対象者に提示または提出(以下「提示等」とします)を要請できます。
また