M&Aで他社の買収を検討しています。その際、リスクとなる簿外債務について、その種類や注意点などについて教えてください。
【この記事の著者】 江黒公認会計士事務所 公認会計士 江黒 崇史
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M&Aが上場企業でもベンチャー企業でも当たり前の時代となりました。
以前は「会社を買う」、「会社を売る」というとネガティブなイメージでしたが、今や若手経営者が大企業に自分の会社を売却したり、老舗企業でも生き残りをかけてM&Aを検討したりする、M&Aに前向きな時代となっています。
M&Aが日常的な用語になったとはいえ、M&Aは一大事ですし、リスクもあります。
そこで今回はM&Aにおけるリスクの中でも、なかなか把握しづらい簿外債務について検討していきましょう。
簿外債務とは?
簿外債務とは帳簿外債務のことで、次のものをいいます。
・会計帳簿に記載されていない債務
・決算書(貸借対照表)に記載されず、注記もされていない債務
会社に債務が存在すれば決算書に載っているのが当たり前、と思われるかもしれませんが決算書には載っていない、注記もされていない債務が現実には起こり得るのです。
簿外債務の種類とリスク
では、実際にどのようなものが簿外債務となるのでしょうか。
M&Aの実務では、次のような内容が簿外債務リスクの主な例として挙げられます。
・未払い残業代
・他人又は他社の債務保証
・係争事件
・株主の真実性リスク
・税務リスク
未払い残業代
未払い残業代は今、非常にトピックスです。
未上場企業では労務へのケアが十分行き届かず、残業代が支払われていない、残業制度が整備されていないということが多いと思います。
また、非上場企業では社員はサービス残業で、残業代を我慢しているケースも多いと聞きます。
これがM&Aにより、仮に現金が豊かな上場企業や、上場していなくても業界で有名な会社が買収となれば、被買収会社の社員が買い手企業のキャッシュに目をつけて未払残業代を請求してくるリスクがあります。
また、買収後に対象会社に労働基準監督署が立ち入り、未払い債務が発覚して思わぬ債務を負うことがあるかもしれません。
この点については、M&Aにおけるデューデリジェンスでしっかり検討しなければならない項目です。
他人又は他社の債務保証
対象会社が他人又は他社の債務を保証している場合や、他人のために資産を担保に供しているような場合、当該債務者が弁済できない場合には保証人となっている会社が債務を弁済しなければなりません。
このような債務は中小企業でオーナー企業の場合、会社の管理部が把握していなくても社長が知り合いの経営者に頼まれて債務保証をしていることがないともいいきれません。
また、厄介なのは社長自身が債務保証の重要性をわからずに安易に引き受けたり、債務保証をしていた事実を失念していたりするリスクです。
このあたりは重要なリスクですので、しっかり対象会社に確認しましょう。
係争事件
ビジネスをしていれば係争事件に巻き込まれることもあるでしょう。
M&Aの検討中に訴訟が生じていて、損害賠償リスクをある程度把握していればまだよいでしょうが、M&A完了後に突如訴えられ、損害賠償リスクが発生してしまっては大変です。
このようなリスクを事前に把握することは中小企業のM&Aでは困難ですが、決算書だけではなく経営者インタビューやビジネスDD、法務DDなども交えて、訴訟リスクがないか、まさに決算書以外のリスクを幅広く検知しておきましょう。
株主の真実性
社歴が浅く、社長が一人株主の場合は問題ありませんが、社歴が古く株主が大勢いる会社は、株主の真実性が問題となることがあります。
とくに昔は「名義株」といわれる名前だけ借りた株主というのも存在したと聞きます。
過去、株式を親戚に広く発行して、その株主が亡くなったり、所在が不明となったりした場合、真実の株主が誰なのか、どこにいるのかわからないのは不明株主としてリスクとなります。
中小企業のM&A実務では結構起こりうるリスクですので、法的手続きにより解消を図ることが多いです。
税務リスク
会社は毎年、税務申告をして税金を納めています。
しかし顧問税理士の下、適正に税金計算をしていても、税務調査が入った場合には追徴課税されるリスクというものがあります。
M&Aの実務では税務申告書をレビューしたり、顧問税理士へのヒアリングなどを実施したりして、税務申告が問題ないことを確かめますが、税務調査により過去の税金が否認され追徴課税されるリスクが生じることはあります。
海外企業とのM&Aでは、各国の税務や日本との取引における「移転価格税制」の問題など税務リスクはより高まりますので、ご留意ください。
その他
上記以外にも、借入金の契約書に「コベナンツ」とよばれる財務制限条項が付いていることがあります。
コベナンツとは、契約当初、締結した際に契約書に記載することのできる一定の条件特約事項のことで、これに抵触した際には、資金の全額返済や金利上昇などが実行され、資金繰りに重要な影響を与えるリスクになります。
「金銭消費貸借契約書」にはコベナンツ記載がありますので、M&A実行手続きの際には注意をしていきましょう。
また、