個人事業主が節税する方法の一つに法人成りがありますが、医師についても医療法人化することで節税等のメリットを享受できます。
本記事では法人に事業形態を変化させるメリットと、医療法人化する際の注意点について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
医師が医療法人化するメリット
医療法人化は、個人事業主の法人成りと同様のメリットを得られるだけでなく、医療法人特有の利点もあります。
利益に対する適用税率の抑制
個人事業主と法人では、利益に対して課される税金が異なります。
個人事業主に課される税金は所得税で、利益が大きいほど税率が高くなる累進課税方式が採用されています。
税率は7段階に区分されており、利益が少なければ適用される税率は低いですが、最高税率は45%と非常に高いです。
法人に課される法人税は、所得税と同じ累進課税方式で税額計算を行います。
ただ法人税の税率は2段階しかなく、最低税率は所得税よりも高いものの、最高税率は23.2%と所得税の約半分です。
おおよその目安として、課税所得金額が900万円を超えると所得税よりも法人税として税金を納めた方が節税になりますので、所得金額が多い医師は、事業形態を法人に転換するだけで納税額を抑えることが可能です。
課税対象を所得税と法人税に分散できる
個人事業主は利益がそのまま所得となりますが、法人を設立した場合には、課税対象となる利益を法人と個人に分散することが可能です。
法人は報酬を支払う分だけ利益を減らすことができますし、医師が受け取った報酬は所得税の課税対象となりますが、報酬金額を抑えることで所得税の適用税率を下げられます。
また報酬は給与所得の対象となるため、給与所得控除の適用により、支出を増やすことなく課税対象金額を減らすことができます。
経費計上できる支出の多様化
個人事業主は事業用として支出している費用しか経費計上が認められておらず、仕事用の支出と私用の支出の区分はシビアです。
それに対し法人の支出は基本的に経費として計上することが可能です。
法人が医師に支払う報酬も経費として計上できますので、利益を分散化しつつ節税策を講じられるのも医療法人化するメリットです。
相続対策としても活用できる
相続が発生した場合、個人事業主として活動していた医師であれば、本人が所有者となっている医療設備等はすべて相続税の課税対象となります。
一方、現在設立することができる「出資持分のない医療法人」の場合、医療法人の持分は相続税の対象にはなりません。
医療法人を解散した際に残余財産の分配がないことなど注意点もありますが、医療法人の方が事業承継をスムーズに行うことができます。
医療法人化する際の4つの注意点
医師が医療法人化する際の注意点は4つあります。
・行政への申請手続き
・事務作業量の増加
・業務範囲の制限
・節税にならない場合
一般の法人は、登記手続き等を行えば法人を設立することが可能ですが、医療法人の設立には許認可手続きが必要です。
設立の認可が下りなければ法人として事業を展開できませんし、認可されたとしても行政への届出や報告が必要になりますので、個人事業主として活動するよりも事務作業量は増加します。
医療法人は、病院等を開設することを目的に設立する法人ですので、業務範囲の制限があります。
基本的に本来業務と関係のない収益事業を行うことは認められていないため、投機目的での経営や、他業種の事業を行うこともできません。
また社会保険への加入が必須となるなど、支出も増えますし、法人税の最低税率は所得税よりも高いです。
このように、すべての医師が法人化によるメリットを享受できるわけではありませんが、一定以上の利益を出している医師であれば、手続き等の労力に伴う対価は得られます。