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一社員が行なった商品転売による不正取引事例



不正取引というと会社ぐるみの行為というイメージがありますが、一社員が行なった不正取引事例があれば教えてください。


【この記事の著者】 江黒公認会計士事務所 公認会計士 江黒 崇史
http://www.eguro-cpa.com/

これまで、さまざまな不正取引を見てきました。
主として、経営者か管理職クラスが実行者であるケースが多いのですが、今回は現場ベテラン社員による不正事例を紹介します。

舞台は、百貨店におけるジュエリー&ウォッチフェア。
現場のスタッフが、適正に顧客に販売したかのように装って伝票処理を行ない、商品を店外に持ち出して転売して不当な利益を得ていたのです。

百貨店での高級時計販売ならば、きちんと管理しているはずですが、今回の事例では、どのような場面で、どのように不正を実行したのか、詳しく見てみましょう。

不正の場面と不正実行者

不正が行なわれたのは通常の販売ではなく、催事フェアイベントでの販売でした。
このフェアイベントは当百貨店にとって大変重要なイベントであり、従業員による拡販営業が盛んに行なわれるものでした。

本件で不正を実施した従業員は、1987年4月に入社しているベテラン社員でした。
不正を実施したのは2014年度から2017年4月までですが、2015年2月には営業統括部のマネージャーを務めるなど、会社からは一定の評価を得ていた人物のようです。

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不正取引の概要

さて、この催事フェアイベントですが、百貨店にとっては一大イベントです。
そこで、従業員には客先に商品を持参して商談を行なうことが推奨されていました。
販売が決まった際には掛売伝票が作成され、当然、買主の名前も記載されます。

本フェアは、毎年8月から10月頃まで行なわれていましたが、代金の支払いは12月が期限となっていました。
そのため、現金決済での売上もあるのですが、フェアによる時計売上高の25%前後は12月に入金されていました。

そしてポイントとなるのは、本件フェアにおける掛販売については上司の承認は不要で、与信の判断も商品を持ち出した従業員の判断に委ねられ、事前の与信枠は設定されていなかったことです。

さらに、販売時から支払期限までの間に支払い決済がなされれば、販売先に対してはお買い上げ明細や請求書の送付はなく、当然、請求督促もなされません。

さて、従業員が商品を百貨店から客先に持ち出して販売行為をして、その入金は12月でもよい、となると何やら嫌な予感がしないでしょうか。

そうです、この従業員は8月から10月までの本件フェアにおいて販売した時計の入金が12月でもよいことを利用して、一旦商品を自己で買い取り、商品を転売していたのです。

販売時に作成される掛売伝票には、親族や知人等の名前を勝手に使ったり、そのうち実在しない(と思われる)氏名を使ったりして、掛売伝票を作成している例もありました。

家族にお願いして買ってもらう、という事例はなくはないと思いますが、勝手に名前を使ったり、実在しない名前で伝票を仕上げたり、という手法はなかなかの猛者ともいえます。

商品を百貨店から客先に持ち出し営業活動をすれば、その掛売販売に上司の承認が不要で、入金は後日でも問題ないという業務習慣を利用して不正を働くことは、長年勤務している従業員であれば容易に思いつくことだったのでしょう。

なお、今回の不正が発生した理由としては、次のことがあげられます。

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