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従業員の身元保証人にはどのような範囲で責任が問えるのか?

採用時に、従業員の身元保証人をとっていますが、身元保証人には、どのような範囲で責任を問うことができるでしょうか?

解説

「身元保証人」の言葉からすると、何か「本人の出身・素性・経歴について間違いないことを確認する人」というイメージがあるかもしれませんが、法的には身元保証とは、「従業員の行為に因って会社が被った損害を賠償することを約束すること」(身元保証法1条)を意味します。

したがって、従業員が会社に対して損害を与えた場合、会社は身元保証人に対しても、従業員と連帯して当該損害の賠償を行うように請求することができます。

しかしながら、このような身元保証人の責任は極めて範囲が広く、身元保証人の責任が重くなり過ぎる危険があります。
そのため、身元保証法5条に基づいて、裁判所が、

①従業員の監督に関する会社の過失の有無、
②身元保証人が身元保証をするに至った事由及びその際の注意の程度、
③従業員の勤務内容や身上の変化、
④その他一切の事情

を斟酌して、身元保証人の責任を減額する場合があります。

判例では、会社の支店長が従業員の不正行為に気がついていたにもかかわらず、直ちに身元保証人に通知しなかったことを斟酌して、身元保証人の責任を大幅に減額したものがあります(判例参照)。

また、出向先の会社の監査業況に問題があったため、従業員の横領行為が可能であったこと、従業員の横領行為を発見できなかったことについても出向先の会社に相応の過失があったこと等の事情を斟酌して、身元保証を行った出向元の会社の責任を損害額の5割とした裁判例(名古屋地判平成25年5月8日金融・商事判例1424号48頁)や、従業員による横領金の使途も明らかにしないのにそのまま以前の職務に復帰させた会社の過失や従業員が会社の事務所及び寮として使用するための建物を購入し、その資金繰りのために1000万円の借入を行うなど会社への経済的貢献があること、身元保証人らに資力がないこと等を考慮して約3500万円の損害賠償を700万円に減額した裁判例(福岡高判平成18年11月9日判タ1255号255頁)もあります。

なお、身元保証契約に関しては、上記の他にも身元保証法によって様々な制限が加えられていますので注意が必要です。

まず、身元保証契約の期間は、期間を定めない場合には原則として3年間とされており(身元保証法1条)、期間を定める場合にも5年間を超えることはできませんし、自動更新の規定も無効であると解されています(身元保証法2条)。

また、会社は従業員について業務上不適任と考えたり、配転で勤務内容を大きく変更した場合は身元保証人に対してそのことを通知しなければなりません(身元保証法3条)。
この場合、通知を受けた身元保証人は、将来に向かって身元保証契約を解除することができます。

もっとも、身元保証人は、この解除権を行使しない限り、いかに勤務内容が変化し、例えば普通銀行員として入行した者が銀行支店長に就任したからといっても、身元保証契約が失効することはありません(判例:泉州銀行事件・最判昭和44年2月21日判時551号50頁)。

判例

ユオ時計事件(最判昭和51年11月26日判時839号68頁)

概要

高級時計の卸売業者であるX社の大阪支店のセールスマンとして雇用された従業員Aについて、Aが雇用されるに当たって、Aの親族であるYらは、Aが職務を行う上で不法行為をしてX社に損害を与えた場合には、連帯してX社に対する賠償責任を負うとの身元保証を行っていた。

しかしながら、Aは、昭和45年10月から昭和46年4月にかけてセールスのために会社から預り保管中の時計589個を勝手に売却した上、その代金を費消し、また、昭和45年12月から昭和46年3月にかけて集金した売却代金を着服し、X社に対して入金せずに費消していた。そのためX社は、Yらに対して、Aと連帯してX社が被った損害を賠償するように請求した。

これに対して、最高裁判所は、身元保証法3条所定の通知義務を怠っている間に、従業員が不正行為をして身元保証人の責任を惹起した場合に、当該通知義務の遅滞は、裁判所が同法5条所定の身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定める上で斟酌すべき事情とはなるが、身元保証人の責任を当然に免れさせる理由とはならず、また通知の遅滞が同法5条所定の斟酌すべき事情として考慮される以上、会社は身元保証人に対して通知の遅滞に基づく損害賠償義務を負うことにもならないと解するのが相当であるとの判断を示した。

その上で最高裁判所は、X社がAの不正行為によって被った損害は合計3246万6408円であるものの、X社の大阪支店長が昭和45年11月にはAの不正行為に気がついていたのに、Yらに対して通知しなかったこと等の事情を考慮して、Yらが身元保証人としてX社に賠償すべき金額を100万円に減額した原審の判断は正当であるとの判断を示した。

会社が従業員の行為に対して損害を被った場合、会社は従業員に対して損害の賠償を請求することができますが、

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