個人事業主が法人へ切り替えることを「法人成り」といいますが、法人から個人事業主へ戻す場合は「個人成り」といいます。
個人事業主に戻してから再び法人化するのは労力を要しますので、個人成りをする場合は事前に注意点を確認し、個人事業主に戻す必要があるのかご検討ください。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
個人成りで必要な法人・個人事業主の手続き
個人成りをする場合は、既存の法人活動を終了(停止)させ、個人事業の開始手続きを行う必要があります。
会社を停止するには解散または休眠の手続きが必要
法人の活動を停止させる方法としては、解散と休眠の2種類あります。
会社の解散は、会社の法人格を消滅させるために必要な手続きです。
解散してもすぐには会社が消滅するわけではなく、会社の財産や債権債務を整理する清算手続きを行い、清算結了登記が完了してはじめて会社は消滅します。
個人成りのもう一つ方法としては、会社が事業を停止させる休眠です。
休眠は会社を休業させているだけなので、後から会社としての事業を再開することも可能です。
ただ休眠中も税務申告手続きは必要ですし、休眠期間が一定以上続くとみなし解散となり、そこから更に期間が経過すると会社は完全に解散しますのでご注意ください。
個人事業主としての開業手続きを行う
個人成りをする場合の開業手続きは、税務署に個人事業の開業届を提出することで事業を開始できます。
個人事業を開業する際に登記手続きは必要ありませんので、法人よりも事業の開始手続きは容易です。
ただ青色申告の申請など、個人事業主としてやるべき手続きもありますので、書類の提出漏れには注意が必要です。
【実務面】法人から個人事業主に戻す際の注意点
法人と個人事業の手続きは平行作業になる
個人成りをする際は、法人の解散手続きと個人事業の開業手続きは同時並行で進めることになります。
法人を解散させる場合、清算手続きはもちろんのこと、税務署へ異動届出書を提出するなど役所関係の手続きもしなければなりません。
個人事業として最初から青色申告者になるためには、事業開始日に「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
また配偶者や子などを専従者とする場合は、「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出しないと、専従者給与を必要経費にできませんので注意しましょう。
社会的信用力低下による減収
個人事業と法人では社会的信用力が異なります。
法人は登記簿で存在を確認できますし、株主総会や決算を行うため事業内容が確認しやすいため、業績が良好であれば銀行も融資をしてくれます。
しかし個人事業主は信用力が法人よりも低いため、業績が良くても融資は受けにくいです。
また取引先によっては、法人間の取引を望むケースもありますので、個人成りをすることで取引が終了することも想定されます。
そして世間的に、法人代表と個人事業主では事業内容に変更がない場合でも、印象は大きく変わりますので、場合よっては風当たりが厳しくなることも覚悟しなければなりません。
【税金面】個人成りする際のデメリット
役員報酬の支払いによる節税は行えない
法人であれば、代表者となった自身に対して報酬を支払うことで法人税を節税する方法もあります。
しかし個人事業には役員の役職はないため、役員報酬を支払うことによる節税策を用いることはできません。
「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出すれば、配偶者や親族の給与を経費計上することも可能です。
しかし青色専従者給与は1年のうち6月を超える期間、事業に専ら従事していることなど適用要件があります。
また税務調査で専従者給与が過大給与と判定された場合、経費計上が否認されることもあるため注意が必要です。
経費計上できる金額は個人事業の方がシビア
個人で事業を行っている際に経費計上できるのは、事業に直接供した支出のみです。
プライベートでの支出は経費になりませんし、事業用と私用で使っている車などは使用頻度等によって案分し、事業用部分のみを経費計上します。
経費計上の可否は、事業用として使用しているかで判定しますので、事業用とプライベート用を明確に区分するなどの税務調査対策も必要です。
法人の場合、会社が建物を借りて社宅のような使い方もできましたが、個人事業主は自己が居住する場所のプライベート部分を経費に含めることはできません。(店舗兼住宅の場合、店舗部分は事業用として経費計上可能。)