山林を相続した際に適用できる相続税の納税猶予制度は、相続財産に山林があるだけでは適用することができず、農地の納税猶予とも適用要件等は異なります。
本記事では、山林に対する相続税の納税猶予制度の適用要件および、免除・確定事由について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
山林に対する相続税の納税猶予制度の概要
山林に対する相続税の納税猶予制度(措法第70条の6の6)は、林業経営相続人が納付すべき相続税のうち、特例山林に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税を猶予する制度です。
特定森林経営計画が定められている区域内に存する山林が特例対象となり、一定の被相続人から相続または遺贈により特例施業対象山林を取得した「林業経営相続人」が、自ら山林の経営を行う場合において適用することができます。
納税猶予を適用した林業経営相続人が死亡するまで計画に基づく経営を継続していた場合、猶予されていた相続税の支払いは免除されますが、納税猶予期間中に確定事由に該当したときは、その時点で猶予されていた相続税を納めることになります。
山林の納税猶予制度を適用するための要件
山林の相続税の納税猶予制度は、被相続人・相続人・山林に対する要件があり、それぞれの要件をすべてクリアすることが求められます。
被相続人の要件
被相続人に対する要件は、次の3点です。
① | 相続開始の直前において特定森林経営計画が定められている区域内に存する山林であって、作業路網の整備を行う部分の面積の合計が100ha以上である山林を所有している (森林の保健機能の増進に関する特別措置法第2条第2項第2号に規定する森林保健施設の整備に係る地区内に存するものを除く) |
② | 次の事項について、死亡前に農林水産大臣の確認を受けている
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③ | 特定森林経営計画に従って、当初認定起算日から死亡の直前まで継続してその有する山林および、他の山林の所有者から経営の委託を受けた山林のすべての経営を、適正かつ確実に行ってきた者として農林水産大臣の確認を受けてきた |
「特定森林経営計画」とは、市町村長等の認定を受けた森林法第11条第1項に規定する森林経営計画のうち、一定の要件を満たすものをいいます。
「当初認定起算日」は、特定森林経営計画に係る被相続人が市町村長等の認定を受けた特定森林経営計画の始期をいいます。
相続人の要件
次の要件をすべて満たす相続人は、「林業経営相続人」として山林の納税猶予の適用対象者となります。
① | 相続開始の直前において、被相続人の推定相続人である |
② | 被相続人から相続または遺贈により、被相続人が相続開始直前に有していたすべての山林を取得した (特定森林経営計画が定められている区域内に存するものに限る) |
③ | 相続または遺贈により取得した山林のすべてを相続開始時から申告期限まで引き続き有し、かつ、特定森林経営計画に従ってその経営を行っている (特定森林経営計画が定められている区域内に存するものに限る) |
④ | 特定森林経営計画に従って、山林の経営を適正かつ確実に行うものと認められる要件として一定のものを満たしている |
「推定相続人」は、相続開始の直前において最先順位の相続権を有している者をいい、相続権には代襲相続権も含まれます。
特例の適用要件となっている「経営」については、林業経営相続人が自ら山林の施業または施業と一体として行う保護を行わなければなりません。
会社等に勤務するなど、林業経営相続人が他に職を有している場合でも、山林の施業または施業と一体として行う保護を林業経営相続人が自ら行っているときは、経営要件を満たしていることになります。
しかし、経営の全部または一部を他人に委託している場合には、自ら経営していないことになるので注意してください。
納税猶予対象の山林の要件
納税猶予の対象となる山林の要件は、次の通りです。
① | 相続開始の直前において、被相続人の推定相続人である |
① | 特定森林経営計画において、作業路網の整備を行う山林として記載されている山林である |
② | 都市計画法第7条第1項に規定する市街化区域内に所在する山林ではない |
③ | 立木にあっては、相続開始日から立木が森林法第10条の5第1項に規定する市町村森林整備計画に定める、標準伐期齢に達する日までの期間が林業経営相続人の相続開始時における平均余命と、30年のうちいずれか短い期間を超える場合におけるその立木であること (森林法第10条第2項第5号の公益的機能別施業森林区域内に存する立木については一定の林齢) |
「平均余命」は、厚生労働省の作成に係る完全生命表に掲げる年齢および性別に応じた平均余命をいい、1年未満の端数は切り捨てます。
山林に対する相続税の納税猶予の免除要件
山林の納税猶予制度を適用して猶予された相続税額は、林業経営相続人が死亡した場合に免除されます。
免除を受けるためには、林業経営相続人の死亡日から同日以後6か月を経過する日までに「山林についての相続税の納税猶予に係る免除届出書」など、一定の書類を税務署へ提出しなければなりません。