適格請求書発行事業者は、消費税の課税事業者からの求めに応じて適格請求書(インボイス)を交付する義務が課されていますが、交付義務が免除される取引も存在します。
また、一定の事業においては、適格請求書の代わりに適格簡易請求書を交付することが認められていますので、今回は適格請求書の交付が不要になるケースと、適格簡易請求書を交付できる事業の範囲について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
適格請求書の交付義務が免除される取引
適格請求書発行事業者の適格請求書の交付義務が免除されるのは、事業の性質上、適格請求書を交付することが困難なケースです。
原則は、消費税の課税事業者から求められた際に適格請求書を交付しなければなりませんが、次の取引に該当する場合には交付義務は免除されます。
- <適格請求書の交付義務が免除されるケース>
- ・公共交通機関特例の対象
- (3万円未満の公共交通機関による旅客の運送)
- ・出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売
- (出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限る)
- ・生産者が農業協同組合、漁業協同組合または森林組合等に委託して行う農林水産物の販売
- (無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限る)
- ・3万円未満の自動販売機および、自動サービス機により行われる商品の販売等
- ・郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス
- (郵便ポストに差し出されたものに限る)
公共交通機関特例の3万円未満の判定単位
3万円未満の船舶やバス、鉄道・軌道による旅客の運送は「公共交通機関特例」の対象となり、適格請求書の交付義務は免除されます。
3万円未満に該当するかは1回の取引ごとに判断し、取引の税込価額が3万円以上の場合は公共交通機関特例の対象から外れます。
「特急料金」・「急行料金」・「寝台料金」は、旅客の運送に直接的に附帯する対価であるため、公共交通機関特例の対象です。
一方、入場料金や手回品料金については、旅客の運送に直接的に附帯する対価ではないため、公共交通機関特例の対象外です。
適格簡易請求書を交付できるケース
不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う事業においては、適格請求書に代えて適格簡易請求書を交付することができます。
- <適格簡易請求書の交付ができる事業>
- 1.小売業
- 2.飲食店業
- 3.写真業
- 4.旅行業
- 5.タクシー業
- 6.駐車場業
- (不特定かつ多数の者に対するものに限る)
- 7.その他これらの事業に準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業
上記の1から5までの事業は、形態を問わず適格簡易請求書を交付することができますが、6および7に該当する事業については、不特定かつ多数の者に対するものに限り、適格簡易請求書の交付が認められます。
「不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業」に該当するかは、個々の事業の性質で判断し、次のような事業は「不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業」に該当します。
- <「不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業」に該当するケース>
- ・資産の譲渡等を行う者が、資産の譲渡等を行う際に相手方の氏名(名称)等を確認せず、取引条件等をあらかじめ提示して相手方を問わず広く資産の譲渡等を行うことが常態である事業
- ・事業の性質上、事業者がその取引において、氏名等を確認するものであったとしても、相手方を問わず広く一般を対象に資産の譲渡等を行っている事業
(取引の相手方について資産の譲渡等を行うごとに特定することを必要とし、取引の相手方ごとに個別に行われる取引であることが常態である事業を除く)