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為替差損益の税務処理:法人の会計処理と課税関係を解説

為替相場の変動によって生じる為替差損益は、法人の会計および税務処理において正確な対応が求められます。

税務上の扱いは複雑であり、損益の認識時期や換算方法の選択を誤ると、意図しない課税が生じる可能性があるため、慎重な判断が不可欠です。

本記事では、法人が直面する為替差損益について、会計処理の基本から税務上の具体的な取扱いまでを解説します。

為替差損益の基礎知識

企業が外貨建取引を行う際、取引の発生から決済までの間に為替相場が変動することで、当初見込んでいた円貨額との間に差額が生じます。

この差額を「為替差損益」といい、利益が生じた場合は「為替差益」、損失が生じた場合は「為替差損」として経理処理を行います。

為替差損益が発生する主なタイミングは、実際に外貨を決済した時と、決算期末に外貨建の資産・負債を評価替えする時であり、それぞれを適切に区分して管理する必要があります。

誤った処理は大きな税務リスクとなり得ます。

会計処理における為替差損益の取扱い

会計上、為替差損益は「実現損益」と「未実現損益」に大別されます。

実現損益は、外貨建売掛金の回収や買掛金の支払いなど、決済によって確定した損益です。

未実現損益は、決算日時点で保有している外貨建資産・負債を、期末の為替レートで評価替えすることによって生じる、帳簿上の評価損益です。

決算では、外貨建資産・負債を期末レートで換算し、帳簿価額との差額を為替差損益として計上します。

この処理を怠ると決算の正確性が損なわれます。

<例1:外貨建買掛金の円換算額が増加した場合(円安)>
期末の円安により支払額が増えるため、為替差損を計上します。
(借方)為替差損 10,000 / (貸方)買掛金 10,000

<例2:外貨建買掛金の円換算額が減少した場合(円高)>
期末の円高により支払額が減るため、為替差益を計上します。
(借方)買掛金 10,000 / (貸方)為替差益 10,000

税務上の取扱い:換算方法と課税関係

法人税法上、外貨建資産・負債の円換算方法は、会計とは異なるルールが定められています。

換算方法の種類

税務上の換算方法には、「発生時換算法」と「期末時換算法」があります。

発生時換算法は、取引が発生した時点の為替レートで換算する方法をいい、期末の評価替えを行わないため、決済するまで為替差損益は認識されません。

期末時換算法は、決算日時点の為替レートで換算する方法で、期末の評価替えで生じた未実現の為替差損益も、その期の課税所得に反映されます。

方法の誤選択は税負担を大きく変える可能性があります。

換算方法は、資産・負債の種類に応じて、原則的な「法定換算方法」が定められています。

しかし、外貨建資産等の種類によっては、納税者が有利な方法を選択できるよう、事前に税務署へ届け出ることで別の換算方法を選択することが可能です。

外貨建資産等の種類別換算方法

外貨建資産等の種類ごとに、選定できる換算方法と選定がない場合の換算方法が定められています。

代表的な区分は以下のとおりです。

  • 外国通貨:期末時換算法(選定なし)
  • 外貨預金:発生時換算法または期末時換算法(短期は期末時、長期は発生時)
  • 売買目的有価証券:期末時換算法(選定なし)
  • 売買目的外有価証券(償還期限・金額あり):発生時換算法または期末時換算法(原則は発生時)
  • 売買目的外有価証券(その他):発生時換算法(選定なし)
  • 外貨建債権債務:発生時換算法または期末時換算法(短期は期末時、長期は発生時)

資産の種類に応じた判定を誤ると申告ミスに直結します。

為替差損益の益金・損金算入と洗替処理

期末時換算法を適用した場合、換算によって生じた評価差額(為替差損益)は、その事業年度の益金または損金に算入されます。

そして、期末に計上した評価損益は、翌期の期首に振り戻す「洗替処理」を行います。

この処理を忘れると課税所得の算定が誤るため注意が必要です。

換算方法の選定と変更の手続き

法定換算方法と異なる方法を選びたい場合、その資産等を取得した事業年度の確定申告書の提出期限までに、「外貨建資産等の期末換算方法等の届出書」を所轄税務署に提出しなければなりません。

換算方法を変更したい場合は、変更したい事業年度が始まる日の前日までに「外貨建資産等の期末換算方法等の変更承認申請書」を提出し、税務署の承認を得る必要があります。

ただし、一度選定した換算方法は、原則として3年間継続適用しなければなりません。

合理的理由がなければ承認が却下される点にも注意が必要です。

為替レートが著しく変動した場合の取扱い

事業年度中に為替レートが著しく変動した場合、納税者の不利を避けるための特例が設けられています。

「著しい変動」とは、期末時と取得時の為替レートの変動率がおおむね15%以上となった場合を指します。

<算式>
(A-B)/ A = 変動率
A:外貨建資産等の額につき、事業年度終了日の為替相場により換算した本邦通貨の額
B:事業年度終了日における外貨建資産等の帳簿価額

この要件を満たす場合、本来は発生時換算法を適用している資産・負債であっても、例外的に期末時換算法で評価し、その期の損益に反映させることが認められます。

本特例を適用するかの判断は任意であり、申請手続きも不要です。

ただし、部分的な適用は認められていないため、外国通貨の種類を同じくする外貨建資産等が2以上「著しい変動」に該当する場合には、一括適用が義務となります。

まとめ

法人の為替差損益処理は、会計と税務のルールを正確に理解し、適切に実務へ反映させることが不可欠です。

税務上においては、資産の種類ごとに換算方法が定められていますが、届出により有利な方法を選ぶことも可能です。

ただし、換算方法の選択・変更には届出が必要であり、継続適用義務も存在します。

著しい為替変動が起きた際は、特例措置の適用を見落とさないことが重要です。

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